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第31話キラービー①
「あっ、シルスナさんチィーッス!」
「シルスナさん!こないだはありがとうございました!」
「幸せでしたっ!」
「お、おう」
「ふふふ、すっかり人気者ですね」
「・・・勘弁してくれよ」
受付嬢さんの言葉に、俺はげんなりとした表情で応える。
あの焼肉パーティーの一件から、どうやら貧乏冒険者たちに懐かれてしまったみたいだ。
慕われて悪い気はしないんだけど、街中至る所で声をかけられるのはめんどくさい。
「あの人たちも悪気はないんです。それで今日はどういったご用件ですか?」
「あぁ、今日はこれを受けようと思ってね」
「拝見致しますね・・・キラービーですか。キラービーはアルド東の森に棲息しています。キラービーの他にも、危険な魔物が複数棲息していますのでお気をつけくださいね」
「ありがとう。行ってくるわ」
・・・
・・
・
「よっし、森に着いたな」
「クルッ!」
「ボッ!」
エイスとボーズと追いかけっこがてら走って約一時間、無事に迷わず目的の森に着くことができた。
「森かぁ・・・懐かしいな!森で暮らしてた頃を思い出すわ」
「クルックルッ♪」
「ボァッ♪」
「おぉ、お前たちもそうか?」
どうやらエイスとボーズも俺と同じ気持ちのようだ。
何て言うか木に囲まれてると、落ち着くんだよね。森暮らしが長かったからかな?
「せっかく森に来たんだし、ゆっくり散歩がてら蜂を狩って帰るか!」
「クルルゥ!」
「ボアッ!」
俺たちは久々の森を満喫しつつ、奥へ進んでいくことにした。
「しっかし、蜂いないなー」
「クルル・・・」
「ボァ・・・」
「まぁ、そんなに落ち込むなって。気楽に行こうぜ」
虫系の魔物って、気配察知し辛いからなぁ・・・遠くにいると全くわからん。
キイィィン、キィィン
「・・・お?」
森の奥から、金属と金属のぶつかる音が聞こえる・・・戦ってるなぁ。同業者が来てるのかな?
そういえば、アルドの冒険者が戦ってるとこ見たことないな。
「ヒマだし、見にいくかー」
道すがら、キノコとか木の実とか見つけれたらいいなー。
「ダーツ!そのまま抑え込め!」
「分かった!」
「援護するわ!」
「おぉ、これは・・・」
案の定、冒険者がいた。俺よりも若そうな少年少女三人組の冒険者が、ゴブリン二匹と戦ってる。戦ってるんだけど・・・
「くっ!これ以上は・・・」
「ダメっ!当たらないっ!」
「ちょこまかと・・・!」
「よ、弱い・・・」
人数差で有利なのに、上手く攻めきれない冒険者達。・・・ウソだろ?ゴブリンだよ?
剣を持った少年はゴブリンと鍔迫り合いで押されてるし、槍を持った少年はゴブリンの動きに翻弄されている。弓を持った少女にいたっては、棒立ちで弓を放っているのに・・・当たらない。
というか、ゴブリン相手に時間をかけすぎると不味いことに・・・
「「ギャギャッ!!」」
「ウソだろ、援軍だとっ!」
「・・・グッ」
「嫌だ嫌だ!死にたくないっ!!」
「あーぁ・・・」
ほら言わんこっちゃない。あっという間に、騒ぎに駆けつけてきたゴブリン達に囲まれる冒険者たち。
あいつら、無駄に数だけは多いからなぁ・・・ゴブリンを見かけたら、百匹はいると思ったほうがいいよ。マジで。
「・・・クルルゥ」
「・・・ボァァァ」
冒険者たちのあまりの弱さに、信じられないといった表情を浮かべているエイスとボーズ。
いや、うん。分かるよ?俺もビックリしてる。
「・・・しょうがない。エイス、ボーズ行くぞ」
「クルッ!」
「ボァッ!」
ここで出会ったのも何かの縁だしね。
俺はゴブリンと冒険者たちの間に割って入ることにした。
「なぁ、お前たち。助けた方がいいか?」
「・・・えっ?」
「だ、だれっ?」
「「・・・ギャギャッ?」」
「・・・いや、助けた方が良いって聞いてるんだけど」
冒険者もゴブリンも、いきなり現れた俺に困惑してるようだ。
どちらも呆けた表情で俺を見詰めている。
いやね。前に助けた冒険者から聞いた話なんだけど、どうも戦闘中の魔物を横から掻っ攫うと違反になるらしい。
・・・これもそれに該当するのかなーって思ってさ。一応、念のために意思確認くらいはした方が良いかなってね。
「それでどうすんの?」
「ギャギャッ!!」
「あ、あぶなっ・・・」
「うるさいっ!」
「ゴギャッ!?」
背後から飛び掛かってくるゴブリンを、俺は難なくいなしお返しにと言わんばかりに殴り返す。
ゴブリンは数メートルに渡って跳ねた後、そのまま動かなくなる。
「あっ!くそっ、やっちゃった」
「・・・えっ?」
「ゴブリンが飛んだ?えっ?」
「・・・これは夢かな?」
やっちまった。ついつい倒しちゃったよ・・・これ横取りとかにならないよね?大丈夫だよね?
「とにかく!この場は助けてやるよ!」
「えっ?あっ、はい・・・ありがとうございま・・・す?」
「よし、行くぞエイス、ボーズ!」
「クルゥッ!」
「ボァッ!」
「「・・・ギャギャッ!?」」
・・・俺は、ゴリ押してその場を誤魔化すことにした。
「よし、こんなもんか。エイス、ボーズ。お疲れ様」
「クルルッ♪」
「ボァッ♪」
俺はエイスとボーズの頭を撫でて褒める。二匹も嬉しそうに尻尾をフリフリしてる・・・ふふふ、可愛い。
結局ゴブリンはお代わりが五匹くらいきて、十匹くらい倒すハメになった。
弱いから別に良いんだけどさ、食えないやつを倒してもなぁ・・・俺にゴブリンを食べる度胸はまだないし。
「あ、あの・・・危ないところを助けて頂いてありがとうございます!」
「ん?あぁ、良いよ良いよ。無事で何より」
ゴブリンの調理法を考えていたら、冒険者の一人が代表して俺に話しかけてきた。
うわぁ、みんなボロボロじゃん。相当、てこずったんだろうなぁ。
「俺はダーツって言います。揺るぎない光のリーダーをやってます」
「俺はロケ、槍使いをやってる。さっきはありがとう助かった」
「私はアンバーよ。死ぬかと思ったわ・・・本当にありがとう」
「俺はシルスナ。んでこっちはエイスにボーズ。よろしくな」
深々とお辞儀をしてくる三人組。きっと良い子たちなんだろうなぁ。
「ところでこんなとこで何してたんだ?」
「俺たち、この森に自生してる果物の採取依頼に来たんですけど・・・」
「ウホッ!」
「途中でゴブリンとばったり出くわしちゃって・・・ウホ?」
「今、ゴリラがいたような・・・気のせいかしら」
「き、気のせいだよ。それでどんな果物なんだ?」
ゴリラぁぁあっ!果物に反応して出てくんなよっ!
俺は籠手を強めに小突きながら、ダーツたちの話を促す。
「えぇっと、リンゴと梨が生ってます。結構、質が良いのが多くて収入が良いんですよね」
「その分、ゴブリンやフォレストウルフにキラービーとか危険は多いけどな」
「本当よ・・・もうしばらくこの森にはいきたくないわ・・・」
ほう、質の良い果物か・・・ゴリラじゃないけど、ちょっとそそられるな。
「なぁ、俺も付いていっていいか?果物気になるわ」
「えっ?それは構いませんけど・・・シルスナさんは、どうしてここに?」
「あぁ、俺?俺はキラービーを狩りに来たんだ」
「「「キラービーっ!?」」」
「・・・?そんな驚くことか?」
大げさに驚く三人組に、俺は思わず首を傾げる。
たかが蜂じゃん?
「キ、キラービーはシルバーランク対象ですよっ!?」
「そうだぜ!悪いことは言わねぇ、辞めときなって!」
「へぇ~、詳しいのな」
「えぇ、この森で一番に気を付けないといけない魔物ですから・・・」
「別名森の殺し屋って呼ばれてて、熟練の冒険者でもやられちゃう人が多いわ・・・」
「な?だから、辞めといた方がいいって!恩人がやられるのは忍びねぇよ」
うーん。心配してくれてるのは、素直に嬉しいんだけど・・・俺、弱っちく見られてる?
君たちが苦戦してたゴブリンぶっ倒したの俺たちだよ?
「こう見えても、俺シルバーランクだし大丈夫だよ」
「「「シルバーランクっ!?」」」
「・・・えぇー」
・・・こいつらに着いて行くの辞めようかな。
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