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第34話キラービー実食（野外）
「はぁー、久々に自分で調理するなー」
俺はたき火に並べた蜂の幼虫の串刺しの焼き加減を調節しつつ、フライパンを取り出し次の調理の準備をする。
「クルクルッ♪」
「ボァッ♪」
「ウホッホッホッホッホッホッ♪」
「まぁ、森にいた頃と違って調味料と道具は万全なんだけどね」
あの頃は塩もなければ胡椒もなかったなぁ。そのまんま素焼きか水で煮るだけ・・・
今じゃ考えられないわ。文明って大事。
「ウホッホッホッホッホッホッ♪」
「最近手に入れたミソを塗って・・・うぉぉぉ、良い匂いだ」
蜂の成虫の身にミソを塗り、そのままフライパンで炒める。ミソの芳醇な香りと身の焼ける香ばしい香りが相まって・・・つまり、最高だ。
「ウホッホッホッホッホッホッ♪」
ミソやばいよな。これを付けるだけで、劇的に美味くなるんだもん。
小瓶一つで銀貨五十枚もしたけど、ここまで美味くなるなら安いもんだよな。
「ウホッホッホッホッホッホッ♪」
あのお店名前なんて言ったっけ・・・あっ、そうそう『大和撫子』って店だ。
東方の珍しい調味料を扱ってるお店で、他にもショーユとかユズコショウっていうのも気になるんだよなぁ。
ミソの味に飽きたら、そっちも試すか。
「ウホッホッホッホッホッホッ♪」
「さっきからうるせぇなっ！もうちょっと大人しく食えよっ！！」
「・・・ウホッ」
さっきからゴリラのテンションが高い。
原因は分かってる。蜂蜜だ。
キラービーの作る蜂蜜は、一言でいうと極上の甘さだった。甘味にあまり興味のない俺や、エイスとボーズでさえもその甘味の虜になったほどだ。
甘党のゴリラならなおさら・・・ね？
テンションのおかしくなったゴリラは、蜂蜜と一口舐めてはドラミング。そしてまた蜂蜜を舐めてはドラミングをさっきからずっと繰り返してる。
「おっ、蜂の幼虫はそろそろ食べ時かな？」
「クルッ！」
「ボァッ！」
「ははは、お前たちも腹減ったよな。よし、食べるか！」
俺は早く早くと急かしてくるエイスとボーズに、幼虫の串焼きをそれぞれ数本ずつ渡す。
「めっちゃ美味そうだよなぁ」
今までワーム系の虫で、不味かった試しはない。
特にこの蜂の幼虫は真っ白でプリプリしてるし、何より匂いが格段に良い。
こんなの否応にも期待しちゃうよね。こんな美味しそうな虫が不味いわけがないっ！
「もうたまらんっ！頂きますっ！」
「クルルッ！」
「ボアッ！」
俺たちは我慢出来ずに、幼虫の串焼きに思いっきりかぶつりつく。
カリッカリに焼けた皮を破ると、中からトロっとした身が口の中へと流れこんでくる。
俺はそれをゆっくりと味わい、そして飲み込む。
「・・・うめぇ」
ワーム系特有の濃厚でクリーミーな味わい。そして一番特筆すべきは、口の中に広がるフルーティーな爽やかな香りだ。
虫を食べてるのに、まるで果物を食べているかのような錯覚すら覚えてしまう。
「クルッ！クルッ！」
「ボァッ！」
ふふふ、エイスとボーズも気に入ったみたいだ。
一心不乱に幼虫の串焼きに齧り付いている。・・・これはお代わり作る必要があるな。俺も食べたいし。
「いやー、これ絶対シチューにしたら美味いだろ・・・食べたかったなぁ」
虫の身ってシチューと相性良いと思うんだよね。
宿屋の女将さんにお願いしたら秒速で断られた。むしろ怒られたわ。
般若みたいな顔で「レディになんてモン見せんだいっ！」って凄まれた時は、正直めっちゃビビったわ。
あまりの迫力にエイスもボーズも尻尾を丸めてたし、ゴリラも籠手の状態でビビってた。
おば・・・女性はいつまで経ってもレディらしい。気を付けよう。
そんなわけで逃げるようにして宿から出てきた俺たちは、ピクニックがてら外で料理してる。
「追いかけっこが白熱して、こんなとこまで来ちゃったけどね」
あれは楽しかった・・・楽しすぎて俺もエイスもボーズも、ゴリラでさえもついつい本気になったほどだ。
そして気付いたら何と神話の森付近。おいおい、歩いたら一週間はかかる距離なんだが・・・どうやって帰ろう。
「まっ、何とかなるか！とりあえず今は飯だなっ」
走れば一日で帰れるし問題ないか。
それよりも飯だ！ちょうど良い感じに蜂の成虫の方の身も焼けてきた。
幼虫ほどじゃないけど綺麗な白い身だし、これも期待できそうだな。
「それじゃ、いただきま・・・」
「ギョ？」
「ギャギャッ！ギョアッ」
「・・・何だ？ゴブリン？」
アイツらが森から出てくるって珍しいな。
「おっ？おおっ？」
うわぁ、森からわんさかゴブリンが出て来てる。
神話の森のゴブリンは、基本的に森の外に出ないのに珍しいこともあるもんだな。
「ギョアッ！」
「ギャギャッ！」
「ギョ？ギョガッ！」
・・・多いな。どんだけ出て来るんだよ。
大きな集落のゴブリンが総出で出てきたって感じだな。
どうも様子が・・・って、あのゴブリン鎧きてね？しかも一丁前に馬に乗ってるわ。
あんなゴブリンいたっけなぁ・・・
「何か面倒くさいことになりそうだから、とりあえず倒しとくか」
俺はそこら辺に落ちてる石を拾い上げ、そのまま鎧ゴブリンへと投げつける。
「グペッ！？」
「よっしゃ、当たりっ！」
俺の投げた石は見事な弾道を描いた後に、鎧ゴブリンの頭に命中！
鎧ゴブリンは馬から崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
うむ。我ながら良いコントロールだ。
「ギャギャッ！？」
「ギョエッ！？ギョアッ！？」
おぉ、いきなり鎧ゴブリンが倒れたもんだから、周りにいたゴブリン達もパニック起こしてるねぇ。
「ウホッ、ウホッ」
「ゴリラどうしたんだ？・・・あぁ、お前もやりたいのね。良いぞ、思いっきりやったれ」
「ウホホッ♪」
どうやらゴリラには、さっきの投石が楽しく見えたらしい。
ゴリラはウッキウキで石を・・・いや、あれは岩だな。岩を持ち上げ、そのままゴブリンの群れに投げつけ始める。
「「「ギョペッ！？」」」
「「「ギョパッ！？」」」
「「「ギャピッ！？」」」
・・・うわぁ、グロッ。
ゴリラの無慈悲な弾岩爆撃によって、ペチャンコに潰れたゴブリンがどんどんと量産されていく。
いや、やり始めたのは俺だけどさ・・・投げてるのが岩な分、ちょっとグロテスクさが段違いだわ・・・
「ギャガッ！ギャギャッ！！」
「ギョアッ！」
「ギギギャッ！」
「ウホホーイッ♪」
「「「ギャベッー！！？」」」
あまりの恐怖に我先にと森へと逃げていくゴブリン達、そして追い打ちをかけるように岩を投げるのを辞めないゴリラ。
「・・・ウホホ」
物足りなさそうな顔で、ゴリラが森を見詰めてる。
お前、まだ投げ足りないのかよ。八割くらいペチャンコにしたじゃん。
「・・・結局、あのゴブリン達って何がしたかったんだろうな」
「ウホッ？」
まぁ、どうせロクなことじゃないだろ。なんせゴブリンだしな。
それよりも、ゴリラが岩を引っこ抜きまくったせいで、辺り一面が穴ぼこだらけなんだが・・・
飯食ったら片づけるかぁ・・・
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