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第35話一方その頃、王都では・・・
「勇者様っ!お助けくださいっ!!」
「あのゴブリンどもから、私たちをお救い下さい!」
「子供の仇を取って下され!勇者様ぁ!」
くそっ、また下々が王門に群がってやがる。
ゴブリン如きがどうしたってんだ。それぐらい自分で何とかしやがれ。
門番に追い払わせても、次々に沸いてきやがる。
それどころか日を重ねる毎に、群がってくる人数が増えてると来たもんだ。全くウザったくてしょうがない。
「あ、あのアルジラ様・・・」
「あぁん?何だ?」
ただでさえイライラしてるのに、近衛の一人が俺に話しかけてくる。
「よ、よろしいのですか?」
「何がだよ!ハッキリ言えっ!ハッキリッ!!」
「た、民のことです。このまま放っといても良いのですか?みな勇者であるアルジラ様を頼って来られているのです」
「はっ、何を言うかと思ったら、そんな下らないことか」
「・・・下らない・・・ですか」
俺は近衛にため息を吐く。
なぜ勇者たる俺様が、下々である民の為に働かなければならないのか。
しかも、ゴブリン相手にだ。
「なんだ文句でもあるのか?」
「・・・いえ」
コイツ、クビにしよう。
言葉にはしないが、不満げな表情を隠そうともしない近衛に俺は内心そう思う。
剣の腕が立つから今まで使ってやっていたが、コイツの反吐が出る程の正義感にはもう我慢の限界だ。
ついでに、そこまで民の為に戦いたいならば前線送りにでもしてやるか。おぉ、我ながら良いアイディアではないか。
「おい、お前。そこまで戦いたいのなら・・・」
「勇者様、良いではありませんか。是非とも私めからもゴブリン退治をお願いしたく存じます」
「・・・お前もか」
正義感ぶった近衛にクビを宣告しようとしたら、もう一人の近衛が口を挟んできた。
俺はこの近衛がゴブリン退治に賛同したことに、少なからず困惑した。
コイツは学園の頃からの俺の取り巻きで、平民を奴隷商に売ったりして小遣い稼ぎをしてきた仲だ。そんなやつが、今更民の為に動くはずがない。
・・・おそらく、何か打算があるはずだ。
「・・・理由を聞こうか」
「ありがとうございます。この頃ゴブリンの襲撃で、アルジラ様への献上品が少なくなってきているのはご存じですか?」
「あぁ、知っている。まったくゴブリンの襲撃如きでこの体たらく・・・嘆かわしい」
献上品の件もゴブリンの件も知っている。
だがゴブリンが襲撃したから、どうと言うのだ。たかがゴブリンだぞ?
それなのに城内の大臣達もまるで国が滅亡するかの如く慌てているし、城門で騒いでいる民も必死に懇願している。全くもって慌て過ぎだろう。
それに軍も軍なら冒険者も冒険者だ。たかがゴブリン如きを、なぜ早急に対処できない。
・・・これは、明らかに平和ボケをしている。
俺が王になった暁には、軍部にメスを入れる必要があるな。・・・ふっ、有能すぎる男は大変だぜ。
「えぇ、そうでございます。これは軍や冒険者ギルドが、もたついているのが原因でございます。そのせいで、アルジラ様の献上品が減らされているのです」
「まったく、軍部の無能には困る」
「そこで、アルジラ様がゴブリン退治に・・・と、繋がるわけでございますが」
「・・・ほう、聞こうではないか」
「軍や冒険者どもが手こずっているゴブリンどもを、アルジラ様が王都から追い払ったら・・・民草はどう思われるでしょうか?」
「・・・なるほど、ゴブリンを追い払っただけで更なる支持を得ることが出来るというわけか」
「さようでございます。献上品も増え、アルジラ様が王へと成る道も早まるかと」
「ふはは、それは良いな!俺が王になった暁には、お前を宰相にしてやる」
「身に余る光栄でございます」
俺は上機嫌で近衛の提案を了承する。
流石は俺の近衛だ。たかがゴブリンを追い払うだけで、民からの信頼・献上品・王への近道。三つの利点を挙げてきやがった。
「・・・おい、そこのお前。お前の言う通りゴブリンを退治してやる。兵の準備をしてこい」
「は、はいっ!」
「では私めは今からアルジラ様が、民の為にゴブリン退治に出向く旨を城下に広めて参りますね」
「ふふっ、ふはははっ!流石は未来の宰相だ!良く分かっているではないか」
「恐縮でございます」
俺は近衛の有能ぶりに、満足気に頷く。
さて俺も準備をしなければな。勇者の出陣だ。俺が王都を救いに出たと、強烈に印象付ける必要がある。
・・・
・・
・
「勇者様ぁー!頑張ってくださいっ!!」
「勇者様がっ!勇者様が我らをお救いになってくださるぞっ!!」
「我らの仇を討ってくだされぇ!」
「勇者様ー!!」
「ふっ、悪くない歓声だな」
「そうでございますね。この歓声はみな、アルジラ様のモノでございます」
準備を整えた俺は聖剣と白銀に輝く鎧を身に纏い、近衛二名と騎士千名を引き連れて城下を行進する。
ふふっ、思った通りだ。俺が騎士団を率いる姿に、民どもは狂喜乱舞してやがる。
大声で俺を応援する民、神のように俺を崇める民、いくつもの歓声に思わず笑みが零れてしまいそうになる・・・おっと、いけないいけない。今は民を救う為に、真剣な顔を作らないとな。
「勇者様、そろそろ王都の外に到着します」
おっと、もうそこまで来ていたのか。
さてここからが、本番だな。たかがゴブリンだ。サクっと倒して、サクっと戻ろう。
「分かった。騎士団の諸君!気を引き締めて行動しろっ!」
「「「「ハッ!!」」」」
ふっ、何だか将軍になったみたいで楽しいなこれ。
俺の号令に一糸乱れぬ返事をする騎士団。それを指揮する俺。・・・うん。悪くないな。
「外壁を抜けるぞ!総員、警戒っ!!」
「「「「応っ!!」」」」
そうこうしている内に、俺たちは外壁へと辿り着いた。
先に外壁で出て、陣を形成している騎士団と合流しその先頭へと移動する。
「・・・ほう。数だけは多いな」
「さようでございますね。数が多いだけに、なんとおぞましい・・・」
「これは、まさか・・・亜種?」
「なにこの戦力差だ。我らの負けは万に一つもないさ」
俺は顔色の悪い近衛たちを笑い飛ばす。
先陣の騎士団と合流し、我が軍勢は総勢二千人。一方ゴブリンどもは五百匹がいいとこだ。
「一丁前に鎧なんぞ着てやがる」
大方、冒険者あたりから奪ったものだろうが、チラホラ質の良さそうな鎧や武器を携えているゴブリンがいる。
・・・あれは売ったら高そうだな。良い小遣い稼ぎにもなりそうだ。
「騎士団長はいるかっ!」
「ハッ!ここに」
「今から打って出る。突撃だ!」
「そ、それは・・・」
「何だ?俺の決定に文句でもあるのか?」
「・・・いえ、了解しました。おい、聞いたか!突撃だ!」
「「「「ハッ!!」」」」
俺の決定に抗えず突撃の準備を始める騎士団。
ククク、さぁこれから蹂躙の始まりだ。
「ギャギャッ!」
「ギョアッ!」
「ふはは!ゴブリン如きが俺様に威嚇するなど頭が高いわ!」
俺はゴブリンと騎士団が睨み合いしている最前線へと移動した。
他の騎士とは一線を画す出で立ちの俺に、ゴブリンは一層鳴き声を大きくする。
ふっ、俺の余りある勇者オーラを感じ取ったのだろう。
雑魚が怯えておるわ。
「勇者様、突撃の準備整いました」
「よし、分かった。俺が今から一匹倒す。それを皮切りに突撃せよ!」
「了解致しました」
俺の指示を聞いた騎士団長が、自分の持ち場へと戻っていく。
「お一人で先陣を切られて大丈夫なのですか?」
「何をおっしゃいます。勇者様ですよ?ゴブリンの一匹程度どうというわけありませんよ」
「いや、しかし・・・あのゴブリンはどう見ても・・・」
「お前、俺が負けるとでも思っているのか?」
「い、いえっ!そういうわけでは・・・」
「なら黙ってそこで見ていろっ!」
「・・・わかりました」
俺は近衛の一人を怒鳴り散らす。
くそっ!良いとこだってのに水を差しやがって・・・後で絶対にクビにしてやる。
「チッ、さっさとゴブリン斬って憂さ晴らしするか・・・おっ?」
「ギョアッ」
俺は単騎でゴブリンの前へと進むと、ゴブリン側からも一匹だけゴブリンが出てきた。
人間大のサイズのゴブリンで、その手には大きな鉄棒が握られている。
まるで俺一人で充分だとでも言いたげなその態度に、一瞬で俺のはらわたが煮えくり返る。
・・・舐めやがって、ゴブリン如きが一丁前に一騎打ちってか?
「その余裕な態度、改めないと後悔するぞ」
俺は腰元の聖剣を引き抜き、剣先をゴブリンの方へと突き立てる。
その聖剣の輝きに、ゴブリン陣営からはおろか自陣からもどよめきが広がる。
ふっ、この聖剣の輝きに恐れ慄いているな。目の前のゴブリンもさぞや後悔しているだろう・・・
「プギャギャッw」
「・・・はっ?」
俺の予想とは裏腹に、目の前のゴブリンは腹を抱えて笑っていた。
一瞬、コイツ気でも狂ったのかとも思ったが、どうやらそうでもなさそうだ。
それどころか、指をクイクイッと挑発してくる始末だ。
「ブギョッw プギャッww」
ブチィッ!
尚も俺を挑発してくるゴブリンに、とうとう俺の堪忍袋の緒が切れた。
・・・良いだろう。そっちがその気ならやってやろうじゃないか。
「今更後悔すんじゃねぇーぞぉっ!!」
俺は聖剣を大きく振りかぶり、ゴブリンに向かって全力で振り下ろす。
聖剣は無抵抗なゴブリンの腹に吸い込まれていきそして・・・
カツンッ
弾け飛んだ・・・聖剣が。
「・・・へあっ?」
その現実が直視できず、俺は思わず変な声が出る。
弾けて宙を舞う聖剣、無傷のゴブリン。・・・はっ?ナンデ?
「プギャギャギャッwww」
「・・・ウボァッ!!?」
ゴブリンの笑い声が聞こえた瞬間、胸部に激しい衝撃が伝わり俺は吹き飛ぶ。
「ガハッ!?・・・ハァハァ、クソッ・・・いてぇ・・・」
受け身もなしに地面に激突し、俺はうめき声をあげる。
クソッ、今にも意識が飛びそうだ。
無意識に殴られた胸部をさすると、特注で作った白銀の鎧が粉々に砕け散っていた。
「ぎゃあああっ!?」
「第一部隊壊滅!騎士団ちょグガッっ!?」
「て、撤退だ!撤退するんだっ!」
「・・・いてぇ!いてぇよ!!」
意識が朦朧とする中、たった五百のゴブリンに蹂躙される騎士団の姿が目に映る。
騎士団も必死の抵抗でゴブリンを倒すが、それ以上のスピードで次々に騎士たちが倒されていく。
「嫌だぁぁあ!!」
「や、やめてヒギャッ!?」
「うわぁぁぁ!」
倒されたもしくは身体の自由を奪われた騎士達が、ゴブリンによってどこかへと連れ去られていく姿を見て俺は恐怖で全身が震える。
連れ去られて何をされるのか・・・どう考えても最悪の未来しか視えない。
俺は今にも漏れそうな悲鳴を必死に抑え、目立たないように気配を押し殺す。
頼む。俺に気付かないでくれ。
「嫌だ!離せぇっ!!」
あ、あれは俺の近衛の・・・。
血だらけの状態で泣き喚く近衛が、引きずられていく。
引きずられていく様子を茫然と見詰めていたら、近衛と目があった。
・・・その瞬間、嫌な予感が俺の脳裏によぎる。そしてそれは現実のモノとなった。
「ア、アルジラ様ぁ!助けてくださいっ!!」
「グギャッ?」
「ギャギャッ?」
クソッ!あの野郎っ!
俺に向かって喚くせいで、ゴブリンが俺に気付くだろうがっ!死ぬなら一人で死ねっ!!
俺は近衛に悪態を吐きながら、より一層気配を押し殺すよう努める。
「アルジラ様ぁ!アルジラ様ぁ・・・!」
「・・・行ったか」
俺は近衛の声が、だんだんと遠くなって行くことに安堵する。
どうやら一応は、難を逃れたようだ。体はまだ動かない。どうにか動けるようになるまで、ゴブリンどもをやり過ごす必要がある。
「プギャギャッw」
「・・・はっ?」
これから逃げる算段を考えていると、ふと頭上から聞き覚えのある笑い声が聞こえる。
「カハッ!?」
上を向こうとした瞬間、頭に衝撃が奔り俺は意識を手放した。
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