第38話半魚人(サーモン)

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第38話半魚人(サーモン)

「おー、あったあった」 「クルルッ!」 「ボァッ!」 「おー、そこにも。エイス、ボーズありがとな」 「クルルゥ♪」 「ボッ♪」 森に自生している野草やキノコ・木の実を、俺はせっせと摘み取る。 こういうのは苦手なんだけど、エイスとボーズのおかげで大量だな。 何で野菜を取ってるのかって? そりゃあ、あのカレーライスの一件で俺は野菜の大切さを知ったからよ。 調味料と肉さえあれば良いと思ってたけど・・・料理を舐めてたわ。 野菜の重要性を痛感した俺は、こうやっていそいそと集めてる。 「クルッ!クルッ!」 「エイス、でかしたっ!」 俺自身は未だに凝った料理は作れないけど、こうやって備蓄しとけばいつかは役に立つかもしれないしな。 「ボッ?ボァ?」 「ん、ボーズどうした?」 ボーズがカブっぽい野菜の前で、不思議そうに首を捻っている。 うーん。ただのカブにしか見えないけど、ボーズが少し警戒してるってことは・・・毒草の類か? まっ、ギルドで聞いてみたら分かるか。引っこ抜こう。 俺はカブの根元を掴むと一気に引っこ抜く。 「・・・へっ?」 「・・・」 難なく抜けたカブには、何と顔が付いていた。 顔のついたカブは、ゆっくりと目を開け俺とバッチリ目が合う。 そしてその瞬間・・・ 「ピャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 「う、うぉぉおおおっ!!?」 「クッ、クルッ!?」 「ボァァァッ!!?」 「ピャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 「う、うるせぇわっ!」 「ピャッ!!?」 俺は思わず、カブに平手打ちをする。 平手打ちを食らったカブは、短い悲鳴を上げるとそのまま静かになった。 「気絶した?・・・いや倒したのか?」 俺は恐る恐るカブを突っつく・・・どうやら倒したようだ。 すごかったな・・・あまりの音量に危うく失神しそうだったわ。まだ耳の奥がキーンって言ってる。 「エイス、ボーズ大丈夫か?」 「・・・クルルゥ」 「・・・ボッ」 エイスもボーズも、流石にあの音量は堪えたようだ。 返事はするけど、大分元気がない。こりゃ、少し休んだ方がいいな。 「奥の川辺でちょっと休むか」 「クルッ!」 「ボァッ!」 あそこなら日当たりも良いし、休むにはうってつけだな。 ・・・ ・・ ・ 「はぁ、大分耳も良くなってきたなぁ」 「クルゥ・・・クルゥ・・・」 「ボォォォ・・・」 「ははっ、気持ちよさそうに寝ちゃって」 見晴らしの良い小川に来た俺たちは、日向ぼっこしながら横になっている。 風も気持ちいいし、太陽も暖かい。おまけに小川の水の音も相まって、絶好のお昼寝スポットだなここ。 エイスもボーズも、気持ちよさそうに寝息を立てている。 最近あんまり構ってやれなかったしな、もうちょっと寝かせてやるか。 「お、小魚がいるな・・・食えるかな」 水面に小魚が泳いでるのが見える。大きい魚は・・・いないか。膝丈くらいの深さの川だもんな。 「アルドに来て、もう半年かぁ・・・あっという間だったな」 でっかい兎を狩って偉いやつと揉めかけて、牛の群れをシバいてみんなで焼肉して・・・蜂蜜をゴリラに急かされて・・・ 「ははは、思い出のほとんどが食べ物関連だな」 だけど、それも悪くない。 自分のやりたいように動いた結果だしな。満足はすれど、不満は一切ない。 案外、こっちの生活の方が俺にあってたんだろうなぁ。 最初は恨んだけど、今じゃアルジラ様様だわ。 「おっ、あの魚美味そうだな・・・」 アルドって魚が不味いんだよなぁ。近くに大きい川や海がないから仕方ないんだけどさ。アルドに輸入されてくる魚って鮮度が悪いモノか、干物の二択なんだよなぁ・・・ 「・・・シーフードカレーまた食べにいくか」 最近、魚が食べたくなるのは、カレーライス専門店『怒れるガンジー』の新メニューのシーフードカレーのせいだ。 鮮度の悪い魚もカレーで煮込むと、めちゃくちゃ美味くなるから不思議だよな。 そして、シーフードカレーを考案したのがアンバーってのもビックリだわ。 アンバーも着実に、料理人としての夢を掴みかけてるな。 知り合いとしては、良いことだな。 バシャバシャバシャバシャ 「俺も夢っていうか、目標くらいは決めないといけないのかなぁ」 冒険者になるって目標はもう達成しちゃったしな。 このままダラダラとアルドに留まってるのも、違う気がするんだよなー。 バシャバシャバシャバシャ 「ぼちぼちアルドを離れるってのもアリなのかねぇ」 バシャバシャバシャバシャ 「って、うるせぇなっ!・・・ん、何だあれ・・・?」 さっきから水を跳ねるような音がうるさい。 音がする方向を見ると、小川の下流から何かが水しぶきをあげて登って来ているようだ。 「・・・魚?うげっ!気持ちわるっ!?」 良く見ると足の生えた魚が、すごい勢いで小川を泳いで・・・いや、あれは走ってるな。 「ギョッギョッギョッギョッギョッ!」 「鳴き方も気持ち悪いっ!!」 何だコイツ・・・見た目も鳴き声も全てが気持ち悪いんだけど・・・ っていうか、このままだと俺たちの近くまでやってくるな。 あんまり関わりたくないけど、エイスもボーズも寝てるしな・・・やるしかないか・・・ 「ギョッギョッギョッギョッ・・・ギョォーーッ!!」 「跳んだっ!?」 魚も俺の存在を認識したのか、小川から飛び出し俺の目の前へと躍り出る。 魚のくせに好戦的なようだな。 ていうか、魚の癖にキレイな脚してんなぁ。 見た目は魚に足が生えてるだけなんだけど、無駄に艶かしくて色気があるのが かえって腹が立つわ。 「悪いけど寝てるやつがいるんでな。速攻で・・・おわっ!?」 俺が言い終えるよりも前に、魚が鋭い蹴りを放ってくる。 くっ、こいつ。魚の癖に中々良い蹴りするじゃん。多分、そこら辺の冒険者じゃ苦戦するだろうな。 「だけど、それだけじゃ俺には・・・ほわっ!?」 あぶねっ!尻尾攻撃もあるのか・・・ 魚の蹴りと尻尾のコンビネーションを寸での所で躱す。 「最後まで喋らせろぉぉっ!」 「ギョパッ!?」 俺は魚の横っ腹に、ボディブローをお見舞いする。 大分効いたみたいで、魚はビチビチと地面を跳ねまくる。 「あんまり強くなかったな」 「・・・ギョッ!」 「・・・ん?」 止めを刺そうと魚に近づくと、何やら魚の様子がおかしい・・・コイツ、まだ何か隠し玉でも持ってんのか? さっきの蹴りと尻尾攻撃もあるし、ちょっと様子見るか。 「ギョ、ギョハ~ン♡」 「・・・はっ?」 思わず底冷えする低い声が出てしまった。 「ギョ~ン♡ギョギョ~ン♡」 「・・・」 静かにブチギレる俺に気付かず、魚は俺に向かって足を組み替えたりクネクネしだす。 ・・・多分、これって色仕掛けのつもりなんだろうな。 魚が気色の悪い声を出す度に、俺の眉間にぶっとい血管が浮き出る。 俺は魚に近づき、目の前でしゃがむ。 そして、魚のアゴ(?)を持ち上げ・・・ 「しゃっ!おらぁぁああっ!!」 「ギョッパァァァアアッ!!!?」 思いっきりアッパーカットをかます。 魚はきりもみ回転をしながら数秒間空を舞った後、地面へと落ちていく。 ・・・人間を、男を舐めやがって。 「・・・クルル?」 「・・・ボァ?」 「あぁ、悪い。起こしちまったか?丁度でかい魚が獲れたから、昼飯にすっか」 「クルッ!」 「ボァッ!」 しかし、足の生えた魚ねぇ。まだまだ俺の知らない世界があるってことかな。
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