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第40話エスバー冒険者の思い
「この場に集まってくれた冒険者達よ・・・ありがとう。君たちのその勇気と心意気を、我々エスバーの民は決して忘れないだろう」
アルドの大通りで声高にギルドマスターが、集まってくれた冒険者たちに最大限の感謝の意を述べる。
「みんなも聞いての通り隣国ジルフィールは、ゴブリンの侵略によって滅亡した!ジルフィールを掌握した今、次にゴブリンが目指すのは、隣国である北のノースト連邦・南のウェステリア聖国・東のイリス帝国そして西のエスバー・・・我々の国だ。幸いなことに我がエスバーはまだ被害は起きていないが、既に他国ではゴブリンによる被害が多発しているらしい」
エスバーの名前が出た途端、冒険者たちの顔が引き締まる。
今この場に残ってる冒険者の多くは、エスバー出身もしくてエスバーに思い入れのある冒険者たちばかりだ。
自分の好きな国が脅威に晒されてるんだから、そりゃ身も引き締まるよね。
「この事態を重く見たウェステリア聖国の聖女マリアベル様主導の元、四ヶ国間による大規模なゴブリン掃討戦が行われることとなった。そして、我ら冒険者ギルドもその作戦に参加する」
「「「「おぉっー!!!」」」」
「国を飲み込むほどに成長したゴブリンは、最早ただのゴブリンに非ず。ギルド依頼に例えるならば、難易度は災厄級にも相当するだろう。正直、生きて帰れる方が難しいだろう・・・だが、それでも君たちは立ち上がってくれた!勇者というものが存在すると言うのならば、それはまさに君たちのことを言うのだろう!改めて言おう。エスバーの為に立ち上がってくれてありがとう!」
「「「「うおぉぉーーーっ!!!」」」」
「作戦決行日は三日後だ!各冒険者たちの配置は、追って知らせる。それまでの三日間・・・家族と過ごすも良し、騒ぐも良し。どうが悔いが残らないように英気を養ってくれ。以上だ」
・・・流石はギルドマスター。みんなをその気にさせるのが上手いなぁ。
みんな死ぬかもしれないってのに、どいつもこいつもやる気に満ち溢れてるな。
まぁ、俺も何だかんだでその作戦に、参加するだけどねー。
ジルフィールが今どんな状況なのも気になるし、何よりエスバーには知り合いも出来ちゃったしな。
これはあれだ・・・何だっけ・・・旅は道連れ世は情けだっけ?
意味は良く分かんないけど、漫画のキャラが言ってた!
「とりあえず、飯でも食うかー」
さてと、とりあえずカレーでも食べようかな。
・・・・・・・・
「アイヤー!シルスナ、来てくれてありがたいヨー!」
「とりあえず、シーフードカレーくれ。ルーとライス大盛り、トッピングで魚三切れで・・・って客減った?」
「アイヤー!そうネ!ゴブリンのせいで、ウチの商売も上がったりヨッ!」
大人気のカレー屋『怒れるガンジー』も、例のゴブリン掃討戦の影響をモロに受けているらしい。
いつもは満員御礼なのに、席が・・・半分以上は空いてるな。そりゃ、いつも陽気な店主も嘆くわな。
「店主は避難しなくて良いのか?」
「フンッ、ここは私の城ネ。ここでイキテ、ここでシヌネ」
「・・・おぉ、店主のくせにかっこいいな」
「一言余計ネ!でも魚一切れサービスしてあげるネ」
「やった!店主サンキュー♪」
「ハイハイ、わかったネ。今から作るから待ってるネ」
怒ってるのか喜んでるのか、良く分からない態度で厨房に引っ込んでいく店主。
魚のサービスはありがたい。カレーも勿論美味いんだけど、カレーの染み込んだ魚はもっと美味いんだよなぁ。
それにしても、『ここで生きて、ここで死ぬ』か。
さっきは茶化すように言ったけど、内心本当に店主のことかっこよく見えたわ。
今のアルドは、どんどん人がアルドから離れていってる。
理由は簡単、アルドがジルフィールに一番近いからだ。国を滅ぼすレベルの魔物が、いつ襲ってくるかも分からない状況だもん。普通の人だったら、そりゃ街から離れるわな。
「あっ!シルスナさんだっ!」
「本当だ。シルスナさん、こんにちは」
「シルスナさんチィーッス!」
「お?お前らもカレーか?」
カレーが出来上がるのを待ってたら、アンバー・ダーツ・ロケがやってきた。
アンバーは俺を見つけると、嬉しそうに俺の元へと駆け寄ってくる。
「はい!私たちも席ご一緒しても良いですか?」
「おー、良いぞ。座れ座れ」
「ありがとうございます!」
「アイヤー!お前たちも来たカ?」
「先生、シーフードカレー三つ!私ライス少な目で!」
「俺は、ルー多めで」
「おっちゃん、なるはやでなっ!ライス大盛りで!」
「注文の多いガキンチョネ!待ってるネ!」
「「「は~い!」」」
三人は手短に注文を済ませると、慣れた手付きでポットからグラスへ水を注ぎ一息吐く。
・・・こいつら、もう完全に常連だな。まぁ、俺も人のこと言えないけどさ。
「アンバーは、今日は客なんだな」
「はい!私たちもゴブリン掃討戦に参加するんで、今の内にいっぱい食べておかないとなって」
「この三日間。毎日カレーを食べる予定なんですよ」
「くぁ~、三日カレーとか贅沢すぎるぜ」
「・・・参加って、お前ら本気か?」
俺は信じられない表情で三人を見る。
はっきり言って、この三人は弱い。ゴブリン掃討戦に参加した所で、何の役にも立たないような気がするんだけど・・・
「ふふふ、弱っちぃ癖に何で・・・って顔してますね」
「・・・まぁな」
「安心してください。戦闘に参加するつもりはありません」
「俺たちが前線に出たとこで、ゴブリン一匹にすら勝てないですからね」
「そこまで分かってるなら、街で大人しくしてれば良いんじゃないか?」
「いえ、私たちはこれでもアルドの冒険者です。戦闘で役に立たなくても、後方支援で頑張ります!」
「物資運搬や救護に調理・・・所謂、雑用係ってやつですね」
「頑張って運ぶぜっ!」
あぁ、なるほど。後方支援か。
うーん。それなら、危なくはないのか?いや、でも万が一が・・・
「・・・危なくなったら、すぐ逃げろよ?」
「ふふふ、シルスナさん。お兄さんみたい」
「確かに」
「シルスナにぃだなっ!」
「・・・茶化すなよ」
「「「はーい」」」
一人っ子だった俺にとって、兄扱いはちょっと照れるな。
しかし、そっかー。こいつらも参加するのか・・・可愛い弟分に妹分だしな。
ジルフィールの様子見がてらに軽いノリで参加したけど、こりゃちょっと気合入れてやらなきゃならんな。
「お待たせネ!シーフードカレー四つヨッ!!」
「おっ、待ってました!」
「良い匂い~」
「もう我慢できねぇ!」
「アッ、そうネ。アンバー達は、半額でいいネ。いつでも食べに来るとイイヨ」
「えっ!?先生いいんですか?」
「・・・ありがたいけど、良いんですか?」
「おっちゃん、太っ腹っ!」
「イイヨイイヨ。その代わり・・・ちゃんと生きて帰ってくるヨ」
「「「はいっ!ありがとうございますっ!!」」」
おぉ、今日の店主はかっこいいな・・・
やっぱ独りでカレーを完成させた漢なだけのことはあるわ。
でも、アンバー達はってどういうこと?
「・・・俺は?」
「アンタは、金もてるからちゃんと払うネ」
「・・・ッス」
腹が立ったから、とりあえず各テーブルに置いてある漬物を全部食べてやったわ。
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