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第1話こうしてボクは追放された
勇者王伝説って知ってるか?
世界征服を目論む魔王を勇者様が倒し、王女様を娶って国を平和に導くっていうありきたりな話さ。
そう、ボクのいる国・・・ジルフィール王国はそんな勇者様が興した国だ。といっても、魔王が倒されて何百年も経ってるんだけどね。
そんなジルフィール王国の貴族の子息には、十八歳になると必ず行われる特殊な儀式がある。それは、選定の儀と呼ばれ、王宮にある聖剣を鞘から抜く儀式だ。聖剣に選ばれた者にしか聖剣は抜けないらしく、見事聖剣を抜けた者は勇者の称号と王の座を得ることになる。
一応、初代勇者・・・初代国王の血が濃いければ濃い程、聖剣に選ばれやすいらしい。今まで引き抜いた者が、一人もいないから本当なのかどうかわからないけど。
「シルスナ!勇者・・・いや、次期国王としてアルジラ=フォトナが命じる。貴様が俺に対してはたらいた数々の無礼、許されるものではない!・・・だが俺は優しい。本来ならば死罪だが、貴様を国外追放とする」
はい。見事に聖剣を抜き時期国王の座が確定した西の公爵家子息アルジラ=フォトナが、さっそくとんでもないことを口走ってますね。
立会人の王様や宰相達も目に見えるレベルで動揺してる。それもそうだね。聖剣が抜けたのって、建国史上初めてのことだもんね。
しかし、よりによってアルジラが抜くとはねぇ・・・
さっきの言動で、アルジラがどういうやつかは想像がつくと思う。アルジラはとにかく尊大な性格をしており、傍若無人な行動が目立つやつだ。実際にアルジラの起こしたトラブルは数知れない。
しかも面倒なことにやつは公爵家。アルジラを諫めることが出来るのは、王家か同じ公爵家であるボクしかいないときたもんだ。
アルジラが何かやらかす度に諫めてきたけど、やつはそれがかなり気に食わなかったらしい。
それにしても、まさか国外追放される程とは思わなかったけどね。
「おい!聞いてるのか!次期国王の言葉だぞ!」
「えーっと。・・・聞こえてはいるっちゃいるけど」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
喚くアルジラに、どうしたもんかと周囲を見渡す。すると王様を始め、周囲にいたみんなが一斉にボクから目を反らす。どうやら、巻き込まれたくないようだ。
そりゃそうだよね。この国では、聖剣に選ばれるということは絶大な意味を持つ。なんたって勇者であり、次期国王だもんね。
そんな相手に、不必要に不興を買うのは得策ではないもんね。
それにしてもねぇ・・・
目を付けられたくないのは分かるよ?でもさ、アルジラの傍若無人な行動を諫めるように頼んできたのは君たちじゃん?少しはフォローしてくれても良いんじゃない?
未だ私は関係ないですよと目を反らし続ける彼らにボクは幻滅する。
別に見返りを求めてたわけじゃないけど、ここまでそっぽを向かれると辛いものがある。
「とにかくお前は国外追放だ!いいですね?王様」
「う、うむ。・・・シルスナ。ジルフィール王の名の元に、お主を国外追放の刑に処す」
「あっはははは。いい気味だシルスナ。さっさと荷物をまとめてこの国から出ていけ!」
「・・・わかった」
どうやら、王様は本格的にボクを切り捨てるようだ。宰相も目を反らすばかりで何も言わない。
今まで良いように使われてたようでとても悔しいけど、王様が宣言した以上ボクの国外追放なのはもう覆らないだろう。
ボクはアルジラに対し短く答え、王宮に背を向ける。背中から勝ち誇ったかのように嘲笑うアルジラの声だけが響いていた。
「この公爵家の恥さらしがっ!」
家に戻ると、待っていたのは怒り狂ってる父上だった。どうやら、ボクが戻るよりも早く情報が届いたようだ。恐らく父が、王宮に放っている草の者辺りだろう。
「貴様のせいで、我が公爵家は存続すら危ういのだぞ!分かっているのかっ!」
「ですが父上・・・ぐっ」
「黙れ!口答えは許さぬぞ!」
いやいや、王様と宰相の頼みでやってたことだし、断れるわけないじゃん。って反論しようとしたら、口を開いた瞬間に頬を殴られた。
殴られた頬が痛むがそれ以上に、父上に初めて殴られたことがショックだった。
「くそっ、どうすれば勇者様のご機嫌を・・・金?いや、女あたりか」
父上はまるでボクの存在を忘れたかのように、いかにアルジラのご機嫌を取れるか必死に考えを張り巡らせている。
・・・この人は本当に父上なのだろうか?ボクの知ってる父上は、優しくて家族や領民を分け隔てなく愛する尊敬できる人だった。だけど今目の前にいる人は、問答無用で息子を張り倒し、勇者とはいえ十八の若造のご機嫌取りに目を血走らせている。
「・・・ん?」
「「・・・・・・」」
目の前の父上を呆けたように眺めていると、ふと背後から視線を感じた。
その視線の先には、今までボクに良くしてくれていた執事やメイド達がいた。彼らは侮蔑の籠った冷たい目で、ボクのことをじっと見つめてくる。
ははっ、ここまで来ると笑うしかないな。
思わず笑ってしまった。いや、笑わないとやってられないってのが正しいのかな?
この国で勇者という言葉は重い。この国の住人はみんな、勇者様のおかげで今の私たちの生活があるのだと教えこまれて育つ。そのせいか、全ての国民は勇者を崇拝していると言っても良い。
そんな次代の勇者であるアルデラに嫌われたボクが、国民にどう思われるかは容易に想像できる。
まさに国民の敵と言っても過言ではないだろうな。
現に今まで親身に接してくれていた使用人達でさえ、既にこの有様だ。領民達は・・・もっと酷いことになってるだろうな。考えたくもないけど。
「何を笑っているこの恥さらしが!お前の顔など見たくもない。さっさと出ていけ!」
ボクが笑っているのが癪に障ったのか、父上は奥の部屋へ引っ込んで行ってしまった。・・・父上にとってボクはもう、喋るにも値しない存在なんだろうな。目も合わせてくれなかったよ。
「「・・・・・・」」
残されたのはボクと、依然と冷たい視線をぶつけてくる使用人たち。
こっちの人たちは目を合わせてくれるけど、それはそれでキツいな。
「・・・うん。それじゃあ、出ていくよ。みんなも元気でな」
「「・・・・・・」」
声をかけても返事もしない使用人たちに、苦笑しつつもボクは公爵家を後にした。
「・・・もう一度、言ってくれないか?」
「けっ、てめぇに売るモノは一つもねぇよ」
「・・・理由を聞いても?」
「アンタ、勇者様から国外追放されたんだろ?勇者様の敵は俺らの敵だ。おめぇに売るもんはねぇよ」
・・・困った。ボクがアルジラに国外追放されたのが、もう国内中に知れ渡っている。
旅に備えて色々と物資を補充したかったんだけど、この様子を見ると他の店も無理っぽそうだな。
「そこを何とかならないかな?売ってくれたら、さっさと出ていくからさ」
「しつけぇんだよ!さっさと国から出てけ、国賊がっ!」
「・・・おい、あれシルスナじゃないか?」
「あの勇者様に歯向かったっていう・・・?」
「まだこの国にいたのかよ」
「・・・わかったよ。邪魔したな、失礼する」
「もう二度とジルフィールに来るんじゃねぇぞ!おい、塩まいとけ!」
どうやら少し目立ちすぎてしまったみたいだ。店主の大声で人が集まってきた。
今ここで領民達に囲まれるのはまずい気がする。ボクは大人しくその場を離れることにした。
「ふう。ここまで来れば一安心かな」
人通りの少ない裏路地まで移動し一息つく。しかし、ここまでとはなぁ・・・
壁にもたれながら、ボクは使用人や領民達の態度を振り返る。
使用人たちの態度で薄々気付いてはいたけど。まさか本当に自分の領地の領民にさえ、こんなに邪見にされるとは正直思ってなかった。
「・・・これでも結構頑張ってたんだけどなぁ」
領地の政策に携われるようになってから、使用人たちがストレスなく働けるように福利厚生の見直し、領民達がより豊かに暮らせるように税の軽減や下水道改修計画など・・・色々と領の為に尽力してたつもりなんだけどな。
先日まで若様若様と慕われていた分、今日の罵詈雑言は思った以上に心に堪えたわ。
「長年かけて築いてきた信頼が一瞬で無に・・・いや、マイナスまで下がっちゃったなぁ」
この国で勇者は崇拝の対象だ。実際にボクも勇者王伝説は好きだったし、勇者様を尊敬してた。アルジラが勇者に選ばれるまでは。
「おい、シルスナがいたらしいぞ!」
「なんだって!勇者様の敵だ!逃がすなよ!」
「・・・うわぁーお」
表通りから、ボクを探す領民達の声が響き渡る。・・・これは、見つかったらタダでは済みそうにないな。
さっきチラっと見えたけど、何で棒とか持ってんの?それで何すんの?叩くの?どんだけ殺意が高いんだよ。
「さて、どうしたもんかねぇ」
本当にどうしよう?国を出ていくにしても、旅に必要な物資はおろか食糧さえも売ってもらえない。
それ所か国を出る前に、領民達に撲殺されそうだ。なにそれ怖い。
「いたぞっ!シルスナだっ!」
「本当か!」
「勇者様の敵に制裁をっ!」
「あっ、やべ。バレた!」
この後、領民達と壮絶な追いかけっこした。
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