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「疲れちゃったの、何もかもに」
「そう……」
「どこに住んでも借金取りは来るし、でも身を持ち崩すのは嫌で……頑張ってるんだけど……なあ」
「いい子すぎるんじゃないのかな。もっと上手に生きられたらいいのにね」
はっ、と入口のほうを見て顔色を変えた。ガラの悪そうな黒いスーツを着た、がっしりとした体型の若い男が何か喚いている。あれか、と確信する。
「店長さん……、裏口ありますか」
「ん?」
「えっと……借金取り。ここも見つかった」
「まあ座ってなよ。ここは私の城だ、悪いようにはしない」
「でも!」
「ここに座った以上は私の客なんだよ、ガタガタ言うな」
「ちょっ!」
そばを行く男の子の腕を引っつかむ。
「おい、リキを呼べ」
「マジすか!」
「言葉に気をつける」
「あっ、す、すいません……」
「隣、いい?」
自分のグラスを持ち、彼女の了承を得て通路側に座る。
「あの……店長さん……」
「金剛。そう呼んで」
「見つけたぞ、真知。手間かけさせやがって」
「へえ、真知ちゃんっていうんだ、本名かな?」
「金剛さん……!」
黒スーツの厳つい男が肩を掴んできた。
「邪魔だ、ホストは向こう行ってな。話がある」
「困ったね、私、仕事してるだけなのに」
「黙れよ!」
「いいなあ、その怒った顔。ワイルド系は人気なんだよ。ここでホストしない?」
キャア、と近いテーブルで女性の悲鳴が聞こえた。リキが来たのだろう。
「ふざけるな!」
借金取りが腕を振り上げる。
「金剛さん!」
彼女の金切り声に、かすかに目を細める。リキの手が横切るのが見えた。
「あいででで!」
借金取りの腕を、リキが掴んで捻り上げている。
「お客さま、乱暴は困ります」
リキのセリフに微塵も説得力がないのはなぜだろう。
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