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「わあ……」
真知ちゃんが、案内した部屋の中を見渡して歓声をあげた。
ストーカーが真知ちゃんの家に先回りしてる可能性もあるし、私に自宅が知られるのは嫌だろうからと、私の持っている部屋に案内した。もちろん、セキュリティも考えて。
ここは私の住居ではなく、賓客をもてなすために押さえてある間取りの広いマンションだ。
お互いのため、そのくらいの距離はあったほうがいいだろうと思う。
「ホストクラブの店長さんはいいお部屋に住んでるのねー」
「住んでないよ。ここは来客用」
来客用、と少し考える間をとってから、斜めに私を見上げてくる。
「ふーん、つまりそういう用?」
黒い瞳が疑いの色を浮かべていた。言いたいことは何となくわかる。女性客を連れ込んで致す用の部屋だと思ったのだろう。
「違うよ、うちのルールでは枕禁止だからね。泥酔したお客さんが帰れなくなった時のためだよ。だから寝室はふたつある。ひとつは君、もうひとつは私のだ。内側から鍵もかけられる。どこで寝るかは、君が決めればいい」
最後の一言を言うのに、真知ちゃんの顔を見ることはできなかった。漂わせた切ない空気に、気づいてくれと願う。
だが、答えを迷うわずかの沈黙に耐えられなかったのは私のほうだった。
「リキのほうがいいなら呼……」
くす、と笑う声に顔をあげる。
「金剛さんって、案外自分に自信がないタイプ?」
うぐ、と喉に何かがつまったような声がでる。
人当たりがいいせいか、力技が必要な喧嘩には縁がない人生を送ってきた。その気になれば何とかなるかもしれないが、腕っぷしに自信がないため、どうしてもリキ頼りなところのある私だ。
「図星だー。こんな素敵な男性なのに、なんで彼女がいないのかなと思ったら」
事実、彼女はいないのだが、そうハッキリ言われると疑問にもなる。
「どうして、いないと思う?」
「いたら彼氏のふりなんてしないでしょ」
しない。確かに。
もし私に彼女がいたら誤解されたくないし、まあこういう職業だから多少は仕方のない面もあるにせよ、考えられる限り亀裂になりそうなことは避けたい。
「女性って……どこまで男を理解してるの」
「さあ?」
すっとぼけてくれる。ああ……もう、理解してもらえる心地よさったらないね。
私が助けるつもりが、うっかり助けられているじゃないか。
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