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「あ、三嶋せんせ!」
指導室の机の上に肘をつき、楽しそうに手をひらひらと振る中途半端に制服を着崩した女子生徒。
予想通り、そこにいたのは元優等生、相沢 優李だった。
成績優秀、人当たりもよく真面目な性格で容姿端麗、まるでドラマの世界からやってきたような優等生だった。しかし、指定校推薦によって有名私立大学への進学が決まると、彼女は一変した。
艶のある黒髪は今や不自然なくらい明るい茶髪に染められている。日に当たると少しピンク色にも見えるその毛先は、ふわりとカールしていた。
常に膝下だったスカート丈もかなり短くなっており、その姿から優等生の雰囲気は欠片も感じられない。
しかし、根が真面目なのかブラウスのボタンは上まできちんと留められており、セーターも学校指定の色のものを身につけているのがなんだか面白かった。
「相沢……またお前か」
俺がため息混じりに相沢の向かい側に座ると、彼女は「んふふ」と柔らかく笑んだ。この笑顔は優等生だった時のままだ。
「何がおかしい?」
「イケメン先生と放課後の密室でふたりぼっち……テンション上がるなぁって」
「お前はこれから生徒指導を受けるんだ。笑ってる場合じゃないんだよ」
「そうは言っても三嶋先生は優しいから怖くないし、やっぱり楽しいなぁって」
「そうじゃないだろ……」
こんな風に何度指導しても毎回ひらりとかわされてしまう。これは俺の経験不足や威厳のなさもあるだろうが、つい彼女に乗せられてしまうのは、どの先生も同じだ。上手く言えないが、彼女には人を惹きつける不思議な力がある。
「なんで私だけなんですか? 髪を染めてる子も、スカート短くしてる子もいっぱいいるじゃないですか」
彼女は毎回そうやって開き直る。
「相沢はそれだけじゃないだろ。いや、それだけでも十分校則違反として指導の対象だが……お前は無断で授業を欠席してる」
「でも、成績はちゃんと取ってます」
彼女は堂々と即答した。そう、これが1番の問題だった。
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