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何を言っているんだ、この元優等生は?
「ふざけたことを言うんじゃない。さあ、指導の続きだ。反省してるのか?」
「ふざけてません。本当に先生に構って欲しくて、こんなことをしているんだとしたら、先生は私と付き合ってくれますか?」
突然の告白に俺は戸惑った。相沢は確かに容姿端麗だが、生徒としてしか見ていないし、そのような目で見てはいけない。
「……お前はずっと優等生の皮を被ってた。だから中途半端な問題児になることでストレスを解消することにした。その延長線でそんなことは言うもんじゃない。頭のいいお前なら分かるよな?」
「ただいけないことがしたいから好きになったんじゃない。三嶋先生だから……」
何かを訴えるような潤んだ瞳に吸い込まれそうになる。しかし俺は教師で相沢は生徒。この境界線を破ることは許されない。
「……悪いが相沢の気持ちには応えられない。今日はもういいから早く帰りなさい」
そう言ってしまったあとで、これは相沢の罠かもしれないと思った。生徒指導から逃げるために関係の無い話を持ち出して、話を逸らす罠。まんまと俺は相沢の巧妙な罠にかかったわけだと。
しかし相沢の顔を見て、俺の考えは間違っていたと気づいた。
「……そうだよね」
伏し目がちな潤んだ瞳。長いまつ毛が顔に影を落としている。もしこれが演技なら人として恐ろしい。
「今日はもう帰ります」
相沢はそう言うと席を立ち、とぼとぼと教室の扉へと近づいていく。
扉に手をかけたところで、「あ」と立ち止まりこちらを振り返った。
「そういえば、職員室に落とし物届いてませんか? ピンクのシャーペンなんですけど」
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