7人が本棚に入れています
本棚に追加
目の前を衝撃的な映像が流れている。
プラカード係としての初めての集まりは、前年度の県大会入場行進の、録画を見るところから始まった。体育館を薄暗くして、下ろしたスクリーンと向かい合い、体育座りの私は固まっている。
「んん? んんんんん? ええええええ……」
まわりを今年の係の子に囲まれているので、引きつった顔を見られないよう、小声になる。
そんなことをしている間にも、四人ずつ隊列を組んだ各校の選手たちは、声を張り上げ球場内を進んでくる。その集団の間を歩く、プラカードを直角に上げた女子たち。
(ママがやりたかったのって、別のなんじゃない?)
見始めたばかりの時、たしか男性アナウンサーが気温二十九度と言っていた。雲も少なく、からりと晴れた夏らしい空。真下をすずしい顔して、誰一人あわてることもなく、プラカード係は横切ってゆく。
……真夏にショッピングに出かけると、ママは「暑いー疲れたー休むー帰ろー」ばかり繰り返している。のど渇いた、が口ぐせの人にこの係は無理だ。
イチ・ニー・イチ・ニー!
どのチームも足並みが崩れないよう一人が音頭を取っていて、野太い、ひたむきな音声に誠実さがにじんでいた。
『西修学院高校ーっ』
吹奏楽の行進曲に乗って、ところどころに刻まれる司会進行役の澄んだ声。県内の放送部の中から、優秀な賞を修めた女子が選ばれているそうだ。
『二十人の選手たち、掛け声も両手足もよく揃っています!』
実況役のテレビアナウンサーの女性も、一校ずつの様子を晴れ晴れと伝えている。
(私もこの中を歩くのか……)
なんとなくの流れでここにいる分、現実味が湧かないというか、緊張も困惑もなくふわふわした心地がしている。
最初のコメントを投稿しよう!