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二人は家の前の細い通りに出た。家まではあと五十メートルほど。夜空が晴れ渡り、色とりどりの星がまたたいて見えた。
雅彦は、我が家の玄関先に、電灯に照らされた女性の姿を見つける。女性は、上品なコートを羽織っていた。
もう用件が終わったのだろうか。女性は何度も頭を下げると、父娘とは反対の方向に歩き去った。
…… いったい誰なのだろう ……
雅彦は妻に別れ話を持ちかけられたばかり。家には入りづらい。
それを察したのだろうか、愛莉が「ちょっと待ってて」と言い雅彦より先に家に入る。しばらくすると家から妻の翔子が飛び出して来た。
今度は殴り飛ばされるのだろうと思い、雅彦は身を固くする。するとどうだろう。妻は雅彦に思い切り抱きついたのだ。
「あなた大好き。本当にごめんなさい。私が悪いの」
雅彦には何がどうなったのかさっぱり分からない。
「あなた、駅前で倒れているご婦人を助けたでしょ?」
確かに雅彦は、人通りの中で苦しそうに踞っている婦人を、救急車を呼んで助けたことがあった。
「あるよ」
「ついさっき娘さんがお礼にみえたの。あなたの対応が早かったから母の命が助かったって。その娘さんの名前が『美優』だったの。私の勘違い。本当にごめんなさい」
「いや。悪かったのは俺だ。お前のことを初めて出会ったときのように大事にしてやれなかった。すまない。これからはお前のことを世界一大切にする」
「雅彦。ありがとう。あ、そういえばさっき会社から電話があったわよ。あなたの首のこと、会社の手違いだったって。近いうちに正式に謝罪に来るそうよ。よかったわね」
愛莉が二人の様子を見て会心の『笑み』を浮かべた。
◇ ◇ ◇
そして雅彦の耳に不思議な声が聞こえてくる。空耳だろうか。
…………
((女神だって、気まぐれでいたずらしたくなるのよ))
了
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