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雅彦はクリスマスの電飾で飾られたイブの街を、足を引きずりながら歩いていた。二十年以上務めた会社を突然解雇されたのだ。
やり場のない憤りと焦燥感を雅彦は感じていた。やがて一歩も歩けなくなり、とうとう道端に倒れ込むと呟いた。
「神様、お願いだ。助けてくれ……」
すると、どこからか若い女性の声がした。
「どうかなさいましたか?」
雅彦はうつろな目で声のする方を向く。そこには赤と金の服を纏った占い師が、柔らかな物腰で座っている。
くっきりとした目鼻立ち。やや捲れた桜色の唇。ビターブラウンの机の上にはタロットカードと水晶玉。
世の中には、こんなにも美しい占い師がいるのだと雅彦は驚いた。そして少しでも癒されればと思い、よろよろと立ち上がって歩み寄ると、女性の正面の椅子に腰掛けた。
名前と生年月日を告げると、占い師は掌を水晶玉にかざした。
そして、シャッフルしたカードをテーブルに置き雅彦に一度だけカットさせる。占い師は、雅彦によって切り出されたカードの山から四枚を取り出し、手元に並べた。
「まぁ素晴らしい。女神が微笑んでいる。きっと何かよいことが起きるに違いないわ」
若い女性占い師は、雅彦の瞳を真っ直ぐ見つめると微笑んだ。
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