嘆きの子守歌

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目を開けると、僕は教室の真ん中の席に座っている。先ほどまで無音だった世界が騒めき始める。黒板に落書きをする男子や、窓際で固まって騒いでいる女子が見える。机に伏せて居眠りをしている人もいる。黒板の上の時計を見ると、午前八時半を指していた。 「(たける)、元気か―。」 前の席の中村彰人(なかむらあきと)が椅子を倒して話しかけてきた。 「ああ、元気だよ。」 寝起きのような声が出て、自分でも驚いた。 「ホントかー?お前いつもこの時間、ボケッとしてるよな。」 彰人がケラケラ笑いながら言った。 彰人は人懐っこい。加えてサッカー部で副キャプテンを務めており、顔も結構かっこいいので、女子にとてもモテる。 「そんなボケっとしてる?」 「ああ。いつも学校に来て席に着くとすぐ寝て、そんで八時半になったらバッと起きるんだよ。ちゃんとホームルームが始まる前に起きるあたりが健らしいよな。」 「そう、なんだ。」 僕は苦笑いをした。 「どうせ昨日、また夜更かししてゲームでもしてたんだろ?」 「う、うん。あ、そういえばさ」 彰人が口を開く前に、別の話題を振った。 「今日って体育、何するんだっけ。」 「あー、確かバスケだった気がする。」 僕が話を逸らしたのには理由がある。しかしその理由は誰も信じてはくれないだろう。そう思って今までずっと隠している。
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