嘆きの子守歌

3/19
前へ
/19ページ
次へ
保健室の先生から許可をもらい、僕は窓側のベッドに横になった。先生は「お昼ご飯を買ってくる」と言って出て行った。何か欲しいものがあるかと聞いてくれたので、お茶とおにぎりを頼んだ。 「まぁよくなるまで安静にしとくことだな。」 彰人がベッドの横でそう言った。 「ありがとう。そうするよ。」 窓は少し開いているようで、心地いい風が僕の身体を撫でた。五月中旬だというのに気温が高い日が続いているので、窓を開けているくらいがちょうどいい。なんとなく窓から空を見上げる。浮かんでいる雲が龍のように見えた。すべてを飲み込んでしまうような、そんな雲。するとまた頭に痛みが走った。 「いッ」 僕は再び頭を抱えた。その瞬間、頭の中にある風景が飛び込んできた。 それは、青空。今見ている空と違って、雲一つない、痛いくらいの青空だ。 「健!」 彰人が僕に近づく。 「大丈夫。すぐよくなるから。」 それから一分ほどで、頭の痛みは引いた。僕は溜息を吐く。 「ほんとに大丈夫かよ。なんか最近多くないか?それ。」 彰人が心配の眼差しを向けてくる。この頭痛がいつから始まったのかは思い出せないが、最近は特に多いと思う。 「そうなんだよね…。」 僕が俯いていると、彰人がベッド横の椅子に座って言った。 「なぁ、何かあったか?」 「え?」 僕は顔を上げた。 「あまり聞かれたくなさそうだったからあえて聞かなかったんだけど、最近のお前、様子が変だからさ。」 彰人は首に巻いていたタオルを手に取り、額の汗を拭う。 「毎朝生気のない顔で登校してるし、席ついた途端寝るし。でも起きたら今までのが嘘だったように元気になるし。あとなんか家のこと聞かれたくなさそうだし、それにその頭痛。」 今度は彰人がため息を吐く。 「そりゃあ心配になるよ。」 彰人は前々から気づいていた。僕の異変に。僕自身も自覚するのに時間がかかった、この異変に。 さっきまで冷たかった手先が暖かくなってきた。彰人になら、言ってもいいのかもしれない。それに誰かに話したかった。一人で抱えるのが怖かったから。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加