嘆きの子守歌

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「あれ?でも俺もお前と一緒に帰る時あるよな。」 彰人は基本部活があるから、いつもは帰りの時間が僕より遅い。しかし日曜が試合だったりすると、次の月曜の部活が休みになり、そういう時は一緒に帰っていた。 「ほら、先週もそうだ。確か火曜だったかな。先々週が遠征だったから月曜から水曜まで部活休みでさ。一緒に帰ったよな。」 確かに帰った。あの日はあまり天気が良くなくて、校庭に出たときには小雨が降っていた。 「覚えているよ。でも」 彰人が「折り畳み傘持ってきた」と自慢げに言ってきたのを覚えている。 「でも、校門を抜けた記憶がないよ。彰人は何か覚えてない?僕はどうしてた?」 彰人が再び腕を組む。 「校庭に出て、普通に話して校門に行って…」 彰人の首が大きく右に傾く。 「あれ、なんでだ?その後のことが思い出せない。」 他の皆と一緒だ。僕は少し怖くなった。 「じゃあ、じゃあその後のことは?僕と帰って、その後の記憶はある?」 そう尋ねると、彰人はすぐに答えた。 「その後は、家で飯を食った。母さんが『遠征お疲れ様』って言って俺の大好物のハンバーグを作ってくれたんだよ。久しぶりに父さんも早く帰ってきてくれた日だから、よく覚えてる。それでその後は宿題やってゲームして、寝た。」 そこで彰人が目をしかめる。 「それはしっかり覚えてるのに、なんでだ?健と学校を出て家に着くまでの記憶が…ない。」 「やっぱりそうなんだ。」 僕は膝を抱えた。 「健はどうなんだ?俺と帰った後のことは覚えてないのか?」 僕は膝を強く抱き寄せた。 「…覚えてないんだ。全く。家に帰った記憶もない。次に目を覚ました時にはもう朝で、教室にいるんだ。」 彰人が息を飲んだように見えた。 「家族は何か言っていないのか?家に帰ってきた時のお前の様子とか、何か知ってるだろ。」 彰人が早口になる。必死に打開策を探しているようだった。 「しばらく、家族と会って話した記憶がないんだ。家に帰った記憶がないから。それに学校にいても連絡がつかない。メールを送ってもエラーになるし、電話もつながらない。」 僕は俯いた。言葉に出した途端、寂しさが込み上げてきた。泣いてしまいそうになって、それを止めようと歯を食いしばる。
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