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いろいろ思い出してくる。
あの日は、目の前に紫色と水色のボールがあったんだ。
それは聖人にもらったボールで、すごく良い匂いのするボールだった。
聖人と、また、これで遊ぼうって約束をしていた。
母さんは大人達とばかりしゃべっていてつまらなかった。ボールを出してよい匂いを嗅ごうと思った。
カバンから取り出したボールは手のひらよりも大きくて、手からすべり落ちてしまった。
ボールはポンポンと弾んでいく。
ボールを拾わなくちゃ、頭はそれだけでいっぱいで、ここはどこなのか、どんな状況なのか、さっぱり分からなかった。
視界にはボールしかなかった。ボールを追って走り出した。
至生!という声とキキーっという耳をつんざく音がしたと思ったら、ドンという音と金属の匂いがした。
突き飛ばされて、縁石にゴツンと頭がぶつかって星が飛ぶ。
頭が痛い。あちこちが痛くて涙が出る。
母さん痛いよ。
後ろをみると母さんが地面に寝ていて周りがどんどん赤くなっていた。
周りに不憫がられていたのは母親を亡くした子どもだからではなくて、自分が原因で母親を亡くした子どもだったからだ。
幼いなりに自責の念を感じていたのか、母親を目の前で亡くした俺は記憶を無くす。
聖人と再会した時にはすっかりキャラクターが変わってしまっていた。
それからは酷い目に合わされたり、辛いことがあると、記憶を無くす。
ランドセルや傘を無くすのは、いじめで隠されていたから。
裸で服を無くしていたのは、性犯罪に巻き込まれていたから。
証拠があるときは通報して、本人が直ぐに記憶を無くしてしまうので、証言が取れない時は、聖人ら家人が張り込んで犯人を見つけてはボコボコにしていたらしい。
「最近では耐性がついてきたみたいですよね」
中1の時の下半身を剥かれた事件や、最近の高校生に先っちょまで入れられた件についてはしっかり覚えている。
舐められかき回された、ねっとりした快楽も。思い出すと身震いがした。
「あ、あれは、ま、聖人が、抱いてくれないから」
「俺のせいにするんですか? 」
「血が薄いとはいえ、一応叔父なんですよね。それにあんたに手をだすと、もれなくこの家がついてくる。それは重いですよ」
「あんたって、呼び方止めてくんない。なんかムカつく」
「俺のことが好きなくせに他のヤツに抱かれようとする薄情者なんて、あんたで十分ですよ」
そう言って聖人は笑っていた。
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