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幼かった私たち姉弟が至生と一緒にいてもこれといった配慮はなかった。子ども時代の私たちは至生のオマケのよう。
聖人はそれなりにしつけには厳しかったけれど、いつも私たちを見て困っていることがあればすぐに対応してくれる。約束は守るし、面子も大事にしてくれていた。誠意がある聖人と場当たりの至生では信頼が違う。
至生から話を聞いてきたのか、部屋にこもる私に聖人が会いに来た。ノックに続く私の名前。聖人の声に私はドアを開けた。
聖人は仕事帰りらしくスーツ姿のままだった。
聖人はあいさつ以外何も言わず、しばらく部屋を眺めてから私に向き合ってきた。
しばらく続く沈黙や雰囲気に堪えかねた私が自ら心あたりの用件を切り出してしまった。
「……喧嘩のこと、聞いて、きたんでしょ?」
聖人は私に残る痛みを見つけたようで「聞いたよ」と肯定する顔には小さな痛みが伝播していた。
「今回の話……初めて聞いた話?」
私を気づかいながらも、心をざわめかせる聖人の問い。私は首をふった。
「……昔から何となく。集まりで聞いたことを集めたら、一つになってた」
「……嫌な思いを……させていたね」
聖人は謝ってはいたけど、すぐに否定しなかった。だから、噂は本当なのかもしれないと思ってしまった。
「……心配しないで。央生は俺の子どもだから」
幼い子に言って聞かせるような優しい口調。
今まで当然のように親子と思っていたけれど、他人かもしれない。その視点が加わると今までと変わらない聖人との間に紙一枚分の距離があるように感じる。そんな風に聖人を感じたことはなかったから聖人が話していることが耳に入らなかった。
聖人は私に何度となく大事や家族というワードを言っていた。それらは私の身体からすぐに抜け出ていってしまう。表面に留まった言葉を集めて繋いでみても、納得に結びつくわけじゃない。
……それに他にも自分を落ち着かせたくない理由があった。
単語をたぐりネットで検索をかける。
該当のページは無数にあった。
良さげに見えるものを一つづつひらいていった。
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