#31 揺らぎの少年 7

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央生(よう)、何これ? これ何なんだ?」 学校から帰ると検査キットがリビングに届ていた。たまたま在宅で、そのパッケージを見つけた至生が怒っていた。普段は思いっきりスルーなのに何でこんなときに限って中身を察するんだろう。他に気づくべきことは幾らだってあるのに。 「……何のつもりだよ、これ」 「至生に関係ない、返して!」 私は至生をにらみつけ、キットを引ったくると自分の部屋にかけ込んだ。 部屋に戻りキットを高所にある窓枠に載せた。着替えながらもその存在が気になり落ちつかない。心が落ちつくまでパッケージを開封できない気がした。 正直、親を断定していいのか、私は揺れていた。安くはない金額を払い込んでいたのに。 でも、さっきの至生の頭ごなしに否定する態度にはムカついた。私がこれまでどんな思いをしてたのか知らないくせに。こんな時だけ口を出して! 検査について至生に咎められたことを三智に知らせるメッセージを送った。迷いを払拭できるよう後押しが欲しくて、それと自分の決意を強くするために送ったものだった。 送信しても既読はつかない。しばらく待ってもその状態は変わらなかった。 「央生……」 後になって聖人が部屋にやってきた。至生から話を聞いて来たようだ。聖人にはいつも不様なところを見られている。 「……以前にも話をしてるから、分かってると思う。また繰り返しだけど、央生は俺の子どもだ」 「その根拠は?……自信あるの?」 「あるね」 聖人は顔を見上げるように私の顔を見て微笑んだ。意味を考えると私の方が顔を赤らめてしまいそうだ。 「それにもし血がつながってなくても家族だし。俺はこの家の人、みな家族だとおもってるから」 聖人はおだやかに問いかける。 「央生が生まれて嬉しくなかったと思う? 今まで央生と作ってきた年月はどうだった? 真砂さんも血縁ないけど家族だよね」 私はまーちゃんの事を思い浮かべた。まーちゃんとは全く血縁はないのに、私を大事にしてくれる。私にとってもまーちゃんは特別だ。 「央生が納得するのなら検査を受けたらいいと思う、協力するし。どんな結果が出ても俺は変わらない」 聖人は最後まで動じず微笑んでいた。 なんとなく負けた気がした。 張り合う気も無くしたし、どうせだからと試料の採取もさせてもらった。 部屋からの去り際、聖人がぽつりと告げた言葉。 「至生ね、泣いてたよ…」 その言葉に初めはなんとも思わなかったし、また至生の悪ふざけかと思って腹立たしく感じた。 しばらくすると急に気になり始めた。 至生が泣く姿は秋田さんの葬儀以来だ。 あの時の至生は、秋田さんの棺にうなだれた頭を載せ、ひたすら泣いていた。それは式の直前に親戚に引き剥がされるまで続いた。秋田さんは聖人と一緒に至生を育てた人だと聞いた。長い闘病生活だったときく。 その至生が……泣いてる? チクリとした棘は胸に刺さり、熱を帯びてきた。私に刺さったその棘はしばらく抜けず、じくじくとした膿を持ちはじめていた。
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