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「央生、何これ? これ何なんだ?」
学校から帰ると検査キットがリビングに届ていた。たまたま在宅で、そのパッケージを見つけた至生が怒っていた。普段は思いっきりスルーなのに何でこんなときに限って中身を察するんだろう。他に気づくべきことは幾らだってあるのに。
「……何のつもりだよ、これ」
「至生に関係ない、返して!」
私は至生をにらみつけ、キットを引ったくると自分の部屋にかけ込んだ。
部屋に戻りキットを高所にある窓枠に載せた。着替えながらもその存在が気になり落ちつかない。心が落ちつくまでパッケージを開封できない気がした。
正直、親を断定していいのか、私は揺れていた。安くはない金額を払い込んでいたのに。
でも、さっきの至生の頭ごなしに否定する態度にはムカついた。私がこれまでどんな思いをしてたのか知らないくせに。こんな時だけ口を出して!
検査について至生に咎められたことを三智に知らせるメッセージを送った。迷いを払拭できるよう後押しが欲しくて、それと自分の決意を強くするために送ったものだった。
送信しても既読はつかない。しばらく待ってもその状態は変わらなかった。
「央生……」
後になって聖人が部屋にやってきた。至生から話を聞いて来たようだ。聖人にはいつも不様なところを見られている。
「……以前にも話をしてるから、分かってると思う。また繰り返しだけど、央生は俺の子どもだ」
「その根拠は?……自信あるの?」
「あるね」
聖人は顔を見上げるように私の顔を見て微笑んだ。意味を考えると私の方が顔を赤らめてしまいそうだ。
「それにもし血がつながってなくても家族だし。俺はこの家の人、みな家族だとおもってるから」
聖人はおだやかに問いかける。
「央生が生まれて嬉しくなかったと思う?
今まで央生と作ってきた年月はどうだった?
真砂さんも血縁ないけど家族だよね」
私はまーちゃんの事を思い浮かべた。まーちゃんとは全く血縁はないのに、私を大事にしてくれる。私にとってもまーちゃんは特別だ。
「央生が納得するのなら検査を受けたらいいと思う、協力するし。どんな結果が出ても俺は変わらない」
聖人は最後まで動じず微笑んでいた。
なんとなく負けた気がした。
張り合う気も無くしたし、どうせだからと試料の採取もさせてもらった。
部屋からの去り際、聖人がぽつりと告げた言葉。
「至生ね、泣いてたよ…」
その言葉に初めはなんとも思わなかったし、また至生の悪ふざけかと思って腹立たしく感じた。
しばらくすると急に気になり始めた。
至生が泣く姿は秋田さんの葬儀以来だ。
あの時の至生は、秋田さんの棺にうなだれた頭を載せ、ひたすら泣いていた。それは式の直前に親戚に引き剥がされるまで続いた。秋田さんは聖人と一緒に至生を育てた人だと聞いた。長い闘病生活だったときく。
その至生が……泣いてる?
チクリとした棘は胸に刺さり、熱を帯びてきた。私に刺さったその棘はしばらく抜けず、じくじくとした膿を持ちはじめていた。
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