#31 揺らぎの少年 7

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さっき聖人にお願いして口内から採らせてもらった試料を引き出した。 端末に目をやると赤い表示が出ていた。タップすると三智からだ。 『お前のこと、子どもにしか思えない』 この一文でツキリと胸が痛んだ。私は自分で思うより恋愛的に三智が好きだったみたいだ。 下に更なるメッセージが続いていた。揺れる視界で文章をたどる。 『至生ほどの衝動を他Ωから感じないし、同性にしか惹かれないから、多分お前が俺の最初で最後の子ども。もし聖人が親でも俺は勝手にそう思ってるから。 俺は至生が好きだったし、おまえが俺の子どもって最高じゃない?』 机の上に広げていたキットの取り扱い説明書にポツポツと水が落ち表面の色をじわりと変えていく。 私は鼻をすすりながら部屋の外に出た。 容器に洗面所で入手してきた新しい試料。 当初予定していた試料とは異なるものだ。 パチンと乾いた音が部屋に響く。 試料を入れたケースの封をすることで、何かが自分から切り離され、身体が軽くなる気がした。 返信用パッケージにキットを封入し翌朝ポストに投函した。 * キットの存在を忘れた頃にメールが届いた。指定のサイトにいき、通知のIDとパスワードで該当ページを開く。 指先で軽くはじくと表示される数字。生物学的親子である確率は99.99%だそうだ。 残りの0.01%は何なんだろう。 数値や精度の問題だと分かっているけれど、何となく可笑しくてふふっと私は笑ってしまう。 だって私は間違いなく至生の子どもだから。聖人か三智か、どちらが親なのかどうでもよくなった。 聖人の試料と差し替えて送付したものは至生の歯ブラシ。 朝、自分の歯ブラシが突然無くなり戸惑っていただろう、至生の姿が今さらながら思い浮かんでしまった。
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