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家に近づく道路でふといい匂いを嗅いだような気がした。
道ばたの雑草が吐き出す草いきれに混じる、甘ったるい花のようで果物のようで脂っぽい匂い。
それが蝶がふわりと舞うような気まぐれな風に運ばれ、僕の鼻腔をくすぐる。
家に近づくにつれて、だんだん濃くなる匂い。
かすかに高い声が聞こえた気がした。
今日はこれから公園で晴海たちと遊ぶ約束をしていた。
晴海が街のデパートで買ってもらったカードゲームで遊ぶという話だった。
教室でも頻繁に話題に上っているゲームで、どのようなシステムか分からなかったので、実物を体験できるのはとても楽しみだった。
早く宿題を終わらせて晴海たちに合流しようと思った。
いつもどおり家の玄関は開いたままだった。
タタキでカラフルな運動靴を脱いで上がり、ランドセルを玄関横の部屋に放り出した。
奥で物音がする。くぐもった声が聞こえる気がした。
部活で忙しい姉が帰宅するには早すぎる時間だ。
むっとする甘い匂いがぶわっと押し寄せてくる。
匂いに色をつけたらこの部屋は何色かがうずまいているに違いない。
この甘ったるい匂いを嗅いでいると頭がぼうっとしてきた。
音は台所の隣の部屋からだ。この辺りの匂いはとくに強い。
頬に熱を感じる。のぼせてきたみたいだ。
のぞいてみると靴下を履いた足が見えた。
足は小刻みに揺れていた。
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