#1  緩やかに拒否

3/7
前へ
/150ページ
次へ
母がいないことを不憫がられ、甘えられる環境につけ込み、俺はやりたい放題、わがまま放題の手に負えないヤツになっていた。 見守る親がいないから監視をする者がいれば落ち着くだろう、兄弟みたいに信頼出来る者がいたら変わるだろう。 そのような希望的観測の下、聖人は忙しい俺の父親の代わりとして監護役と世話役になった。 聖人にたくさんの無茶を言った。 冬なのに水中メガネが欲しいと言ったり、夏にかまくらに泊まりたいと言ったり、聖人にビキニをつけさせ化粧させてみたり、聖人と2人でふんどし姿になって家の周りを走り回ったり、細い木の上にツリーハウスを作らせたり、隣の家のおじさんの愛人の家に奥さんの下着を投げ込んだり、いたずらと犯罪すれすれのむちゃくちゃをしていた。 一方的に聖人を困らせるのではなくて、一緒にやって聖人を恥ずかしがらせ、困らせるのが楽しかった。 聖人は落ち着いた環境が与えられると、恩義なのか猛勉強の末、かなりの進学校に進みそのまま難関大学に入った。 学部卒業後は一族が経営している会社に入った。宝の持ち腐れだと思う。 聖人は俺の世話をする。 俺は聖人の目を盗み、いかに勉強をサボるかに、かなりのエネルギーを費やす。 聖人は親から直々に成績の悪い俺の勉強の面倒をみてくれと頼まれていたようで、必死で俺を捕まえようとする。 俺は、成績の他にも忘れ物がひどくて、特に傘をよく紛失していた。 聖人は俺が傘を紛失しないよういつも注意していた。 俺は傘だけではなく連絡帳やプリント類、帽子などいろんなものを紛失してきたので、聖人はその対応に追われ大変そうだった。 ランドセルや着ている服を無くしてきたこともあって、その度に聖人は駆けずり回っていた。 俺は勉強が嫌いで苦手だったけれど、それでも何とか勉強をして試験を突破して無事に近所の私立中学に入った。 偏差値は高くない普通の学校だけど、大学が付属しており大学まで呑気な学生生活がおくれると思ったものだ。 入学時の健康診断で俺の性属性がΩであることがわかった。 αばかりの一族の中で突然のΩ。俺には突然変異のように思えた。でも調べてみると4代前にΩの曾祖父がいたので先祖返りかもしれない。 親父には子供は俺しかいなく、祖父には孫は俺しかいない。直系卑属は俺だけなので、Ωの俺でも当主になるのは確定していた。 αの嫁か婿を取らされるのだろうけど。 祖父はαの特性を生かし商売を立ち上げた。今では本業以外に不動産管理や複数の事業を行い利益の大半はそこから上がっている。 そのため後継者がαであることにはこだわっていないようだ。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

550人が本棚に入れています
本棚に追加