ファーストキス

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ファーストキス

 電車に揺られているときのことだった。  一人、旅行から帰るロングシートに座った電車の中で、仕事終わりのサラリーマンや部活終わりの学生が増えてきたのをぼんやりした頭で確認した。  これからもっと増えるのかな?  そんなことを考えながら天井を見上げると、ガタン! と電車が大きく揺れた。  そして僕の左耳を掠めるように、バランスを崩した文学少女(立ったまま本を読んでいた部活終わりの学生)の右手が窓をバン! と叩いた。  いわゆる壁ドンの形である。  それだけでもドキドキしそうな展開なのに、僕のぼんやりした頭の思考は停止していた。  マスク越し。  唇が、重なった。  文学少女は顔を赤らめながらすぐに離れ、慌てて落とした本を拾った。
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