生きた証

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 早苗は、将来のことに関して不安はないようだ。  それに引き換え、彼氏と別れたことで、本当にそれで良かったのか不安になっている自分がいた。あっけらかんと、自分の将来を信じる早苗が羨ましく思った。 「それでね。ちょっとお願いがあるんだけど」  早苗が申し訳なさそうに言い始めた。 「何よ。お金は貸さないよ」 「そうじゃないのよ。将来的には千枝にも手伝って欲しいなって思って。ほら、経理の仕事やってるでしょ?」  期待に満ちた目で早苗は私を見る。 「生きた証ね」 「そ、生きた証」  今勤めている会社がいつ潰れるか分からない。それは今の時代、大企業でも同じことだ。安心できる仕事なんてない。でもだからって、早苗と起業するのはどうだろう。「生きた証」が欲しいという彼女は、本当にそんなものを欲しがっているのだろうか。私はそれは違うという気がした。彼女が欲しがっているのは、自分を認めてくれる「何か」なんじゃないだろうか。  私は少し考えた後、笑顔で早苗に答えた。 「やだよ」と。
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