6人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
早苗は、将来のことに関して不安はないようだ。
それに引き換え、彼氏と別れたことで、本当にそれで良かったのか不安になっている自分がいた。あっけらかんと、自分の将来を信じる早苗が羨ましく思った。
「それでね。ちょっとお願いがあるんだけど」
早苗が申し訳なさそうに言い始めた。
「何よ。お金は貸さないよ」
「そうじゃないのよ。将来的には千枝にも手伝って欲しいなって思って。ほら、経理の仕事やってるでしょ?」
期待に満ちた目で早苗は私を見る。
「生きた証ね」
「そ、生きた証」
今勤めている会社がいつ潰れるか分からない。それは今の時代、大企業でも同じことだ。安心できる仕事なんてない。でもだからって、早苗と起業するのはどうだろう。「生きた証」が欲しいという彼女は、本当にそんなものを欲しがっているのだろうか。私はそれは違うという気がした。彼女が欲しがっているのは、自分を認めてくれる「何か」なんじゃないだろうか。
私は少し考えた後、笑顔で早苗に答えた。
「やだよ」と。
最初のコメントを投稿しよう!