Ⅰ 跡取りのご令嬢

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Ⅰ 跡取りのご令嬢

 聖暦1580年代末。遥か海の彼方に未知の大陸〝新天地〟を発見し、世界屈指の大帝国となったエルドラニア……。  そのエルドラニアが最初に入植した〝エルドラーニャ島〟の北方に浮かぶ小島〝トリニティーガー〟には、支配層のエルドラニア人に追いやられたアングラント王国やフランクル王国などの出身者がいつの頃からか住みつき始め、今やエルドラニアですらも手出しができぬ海賊達の巣窟と化していた。  そんなトリニィーガー島の、よく晴れたある日の朝の出来事である……。 「――はぁ……今日もいいお天気ですわあ」  白く塗られた観音開きの窓を大きく開き、少女は感嘆の吐息を吐くと、うっとりとした眼差しで独りその絶景に呟く。  二階にあるその自室からは、椰子の木が並ぶ真っ白な砂浜の向こう側、穏やかな小々波(さざなみ)が朝日を浴びて、キラキラと輝く南国の海を望むことができる。  その南洋の景色を(つぶ)らな碧い瞳に映す、淡い金色の長髪をくるくるに巻いた美しい少女の名はフォンテーヌ・ド・エトワール……若干17歳にして、この家の当主であったりもする。 「小鳥さん、おはようございます……天にまします我らが神よ。今日も一日、生きとし生けるものに祝福のあらんことを……」  そして、ピチチ…と歌声を披露しながら飛んでゆく極彩色のインコ達に朝の挨拶を口にし、窓辺で暖かな朝日の光を浴びながら、寝巻き姿の彼女は手を胸の前に組んで天に祈りを捧げる。 「おはようございます。フォンテーヌお嬢さま。お支度のお手伝いに参りました」 と、そこへ、コン! コン! コン! とドアを叩く軽快なノック音が響き渡り、部屋の入り口のドアの向こうからそんな女性の声が聞こえてくる。 「はーい! お入りになって」  その声に金色の髪をなびかせながら、くるりと振り返ってフォンテーヌが答えると、髪をアップにして眼鏡をかけた、暗いエンジのドレスの女性が入ってきた。  その、整った顔立ちだがややツンとした感じを受けるクールビューティーはマユリィ・サンドルジュ。フォンテーヌの世話係兼教育係的な使用人である。
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