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「縁結びは……大学入試の制度が変わり、天神様は大忙し。私の神力にも、限りがあるのです」
申し訳なさそうに、恋命が顔を伏せる。恋命は、天神である菅原道真公が、流された太宰府で生涯を終える折、都の帝や家族を恋しく思った御心の霊魂である。そのため、神力の源は天神と同じで、天神が特に忙しい今年、余力が無い。
「大国主命殿は、元より抱えておられる案件が多い。菊理媛命殿も、今は新型コロナウイルスの厄払いにご尽力されておられる故……」
猿田彦命が縁結びの神の名を挙げるが、協力を仰げそうにもない。
「この際、神や仏に限らず、外つ国にもご助力願うのはいかがかな」
ふと、宇迦之御魂神が呟く。同じ「稲荷」として荼枳尼天と誼を通じる彼女ならではの発想である。
「しかし、新型コロナウイルスの蔓延は我が国だけではない上、我らの存在を認めぬセム殿に頼むわけにも……」
猿田彦命が、顔を曇らせた。外つ国、と言えばまず浮かぶのがセム的一神教の「神」だが、到底協力を頼める相手ではない。
他に浮かぶのは仏だが、仏の一部は既に神々と一体化し、そうでなくとも荼枳尼天のように、協力関係にある。新たな戦力とはならない。
「では……あのお方ならいかがでしょうか」
恋命が、ある提案をした。元より学問の神である天神の影響で知識が深い上、恋愛や縁結びに特化しているだけあって、他国の同様の神々には特に詳しい。
「確かに。ここ1600年近く、暇を持て余しておられるな」
その名に、宇迦之御魂神が頷く。外つ国でも祈る者が少なく、時勢の影響を受けない。
「近年は、ごくまれに我が国にもお出ましのようじゃし、お引き受け下さるやもしれぬ」
猿田彦命は、近年、彼女のこの国での知名度が上がっていることと、そのために暇を持て余した彼女が、秘かにこの国を訪れていることを思い出し、オファーすることを決めた。
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