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「悪い、神様なの?」
香帆の前に現れた天津甕星は、神にしては威厳が薄かったものの、嫌な感じはしなかった。香帆に、人を……いや、神を見る目がないだけかもしれないが、いわゆる邪神などではないと信じたい。
香帆のやや悲しげな表情に、武藤は頭を掻いた。
「実際にはわからねえが、そう書かれてる。古文だと悪っていうのは、悪い意味だけじゃなく、力強いとかって意味もあるけど……『古事記』だと災いとかそういう意味でも使われてるからな。ヤマト政権に服従しなかった部族の中に、星を祀る一族がいたからじゃないかって説もある」
その一族が、母の祖先なのだろうか、と香帆はぼんやり考える。
「ともかく、神々が豊葦原中国、つまりこの地上を平定しようとした時、最後まで抵抗したのが星神香香背男だと書かれている。別の説として、地上に向かう前に先に高天原にいる悪い神、天津甕星またの名を天香香背男を征服してからにするという記述もある。それで、星神香香背男も天香香背男も、天津甕星の別名だと言われている」
「詳しいのね」
香帆は、同級生の意外な一面に驚く。
武藤は、『悪』の意味に若干のフォローを入れながら、天津甕星について淀みなく説明した。いくら仕事とはいえ、聞かれてすぐに、これほど詳しく説明できるものなのだろうか。
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