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香帆は、高校を卒業したら働くつもりだったが、祖父母は進学を勧めてくれた。そこで、自宅から通える国立大学に進み、奨学金で通った。卒業後は、常連客の一人に紹介された、小さいながらも待遇の良い会社に、事務職として入った。
祖父は香帆の就職を見届けると、自分の役割は終わったとばかりに冥土へ旅立ち、祖父の3回忌を済ませて店をたたんだ祖母も、後を追った。
祖父母には父の他に子は無く、一族の反対を押し切って父の元へ嫁いだという母の親類には、会ったことが無い。
自分が幸せになることが、母の願いだった。
けれども今、香帆は幸せと言えるのだろうか。
友人はいるが、そのうちの何人かは結婚し、子供もいる。皆で会っても話が合わなくなってきた。
香帆と同じように独身の友人達も、遠方や中には海外へ転勤したり、管理職に出世したりして、頻繁に会うことが難しく、また仕事に対する意識の違いから、独身同士だからと話が合うわけではなくなっている。
その上……30歳の誕生日を目前に、結婚を考えていた相手から振られたばかりだった。
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