治癒の願掛けは正直しんどい

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治癒の願掛けは正直しんどい

吾輩は神である。 「神様」「仏様」その類である。 たまに身を削ってまで願掛けをする猛者がいる。 寒空の下、裸足で早朝の神社の賽銭箱へ小銭を投げ入れ、願い事をすると、神道を下って折り返し、また階段を上がって賽銭箱へ小銭を入れる。 「妻が病気で、入院しています。どうか、どうか病が治ります様に」 今時こんな古びた風習を行う民がいる事に吾輩は驚いた。手順は少しばかり違うが、この民は一心不乱に吾輩へ語り掛け、何度も同じ願掛けをした。 この様な民の力添えになりたい。吾輩の存在意義そのものである。 しかし、中にはこんな輩もいる 「風俗行ったら性病うつされちゃって、早く治りますように」 自業自得だから! てか病院行け! あと保健所で検査もしろ! 「外で一日中道路整備してました。風邪をひいたかもしれません。治りますように」 お疲れ様です! 病院行け! 「妻が! 入院してる妻が破水して、今にも子供が産まれそうです!! 無事に産まれますように!」 何故ここへ来る!? 今すぐ産婦人科行け! 「因みに名前はムツゴロウかタンジロウで迷っています」 どーでもいい!! 産婦人科行けって!! タンジロウにしてもいいけどブームが去った後に後悔するなよ?! 「痔が治りますように」 シンプルに病院行け! 「子供の歯が抜けたので綺麗に生え揃う様にお賽銭と一緒に入れておきます」 やめてください。やるなら自宅で窓の外から家の屋根目掛けて投げといて下さい。 何で一緒に入れる?! 「やっぱりタンジロウは辞めます!」 思い直したか。……いや嫁どうした?!  ほったらかすな! 側にいてやれ! 「タンジロウじゃなくてネズコにします! 無事に産まれます様に!」 女の子だったのかー!  ……だからそっち行けってば!! こっち来んなって!! 「頭が見えたそうです!」 無事に生まれるから! 大丈夫だから! もういいから! 民を苦しめる病は憎いものだが、時に民が我輩の悩みとなる。正直しんどい。
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