掛け声

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掛け声

この国では毎年お祭りが開かれ、多くの人が楽しんでいる。 その中でもとんでもない騒ぎっぷりを見せる村が二つあり、東に位置するのはワッショイ村。西に位置するのはドッコイショ村だ。 それぞれ違いを意識してはいたが、反目することはなく祭りを楽しんでいた。 だが第89回目の祭りの際、たまたま立ち寄った子供の一言で、双方の村は戦いの日々を迎えることになる。 「ねえねえ、おじさん。」 「おう、どうしたい。」 「掛け声って違うんだね。ワッショイとドッコイショ、どっちがいいの。」 間髪入れずにワッショイ村の若い衆が答える。 「そりゃもちろんワッショイだよ坊や。」 「馬鹿言っちゃいけねえ。そんなもんで気合が入るかよ。ドッコイショに決まってるだろ。」 「おいおい、冗談は顔だけにしてくれよ。」 「なんだとこの猿やろう!」 かくして始まった掛け声論争。 村人同士の言い合いにとどまらず、互いの村の村長が話し合うも、15分を過ぎたあたりから取っ組み合いが始まったため中止となった。 周辺の村が諫めに行くも、正しいのはこちらだ、歴史が違うんだと双方譲らず、みな匙を投げた。 結論が出ないまま第90回の祭りを迎えることになる。 互いの村は目も合わせぬまま、ただひたすらに掛け声を飛ばした。 これが正しいに決まってる。 俺はこの掛け声で大きくなってきたんだ。 今更変えてたまるものか。 そんな中、あの坊やが旅人風の男に話しかけた。 「ねえねえ、おじさん。」 「なんだい。」 「おじさんはどこから来たの。」 「遠い西の国さ。」 「ふーん。お祭りのときはなんていうの。」 「そりゃあ、ヨッコイセ!に決まってるじゃないか。」 あらたな火種がまかれた瞬間。 まだまだ決着はつきそうにない。
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