脱走

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脱走

やれやれ。ようやく、あの忌々しい監獄から抜け出すことができた。これで晴れて自由の身だ。 奴らは面食らっただろうな。きっと、脱走できそうな場所など無いと思っていたに違いない。入り口も窓も全て塞いであるのだから。 だが、そこに胡座をかいていたのが運の尽き。諦めていると思って、俺から目を離したのがいけなかった。奴ら、今頃必死になって探しているに違いない。だが残念だったな。足には自信がある。逃げ切ってやるさ。 それにしても、一体何が目的だったんだろうなあ。俺を閉じ込め、それを見に来ては妙ににやにやしていやがる。まあ、食料は十分に与えられたから、飢える心配は無かったが。 太らせて食料にでもするつもりだったのか。いやしかし、それにしては効率が悪すぎる。少なくともここには俺と奴らしかいなかったし、それでは腹も膨れまい。 ではどうしてなのだろう。考えても仕方ないか。自分でも分かってはいるが、俺はあまり頭が良くない。考えることは苦手なんだ。そんな時間があるなら、体でも動かしていたほうが建設的だ。 気分を変えよう。俺はもう自由の身なんだ。過ぎたことを気にすることはない。明日に向かって生きていけばいい。 それにしても、これからどうしようか。長いことあそこにいたから、外の様子がさっぱりわからん。誰か、この近くに住んでいる者はいないだろうか。 そんなことを考えていると、急に視界が暗くなった。いきなりの事態に面を食らっていると、なにやら声が聞こえてくる。まさか、そんな。 最悪の事態が起こってしまった。どうやら俺は、奴らに捕まってしまったらしい。あそこからは遠く離れているはずなのに。どうやら、相手の力をみくびっていたようだ。全身の力が抜けてくる。俺はもう逃げることはできないだろう。せっかくここまで来たのに。ちくしょう、ちくしょう…… 「おかあさーん、ハムちゃんが逃げてたー。」
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