平均

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平均

人は誰しも平均というものを知りたがるものだ。収入しかり、体重しかり、テストの点数しかり。そしてそれによって一喜一憂する。上回っていれば歓喜し、下回っていれば悲観し、同じぐらいであればまあこんなものかと頷く。自分のレベルがどれほどかを見るのにはちょうどいい指標なのだろう。 上と下があるなら真ん中もある。すなわち、何もかもが平均値ちょうどの人間がいることもあるのではないだろうか。ボブはまさにそんな男だった。 身長も体重も平均値ぴったり。テストをすればどの科目も常に平均点ちょうどなため、先生はボブの点数によってテストの難易度を測った。成績を付ける際には、ボブを上回っていれば優をつけ、そうでなければもっと頑張れと励ました。 運動面においても同じだった。100mを走れば全国の平均タイムとピタリ同じであり、ウエイトトレーニングでさえ全ての種目が平均重量と1グラムも変わらなかった。ついでに言うと、身長も体重も同様だった。 そんなボブの人生がどんなものであったか。想像するに難しいことはないだろう。平均的な学力の大学を卒業し、平均的な仕事時間の会社に入り、平均的な給与をもらった。休みの日は平均的な時間に起き、平均的なカロリーを取り、平均的な量の酒を飲んで眠りについた。友人と接する際も平均的な態度で会話をし、誰が相手であっても 「まあ、あんなもんじゃないか。」 そう言われていた。 やがてボブも年をとり、だんだんと布団から動くことが難しくなっていった。体も弱っていき、最後は家族で看取ってあげようと自宅の布団に伏せっていた。徐々に小さくなっていく呼吸。やがてそれは止まり、見ていた家族は皆涙した。もう会えないなんて。よく頑張ったな。そんな言葉をかけながら。 そして医者を呼び、最後の確認をしてもらおうとしたその時、突然ボブが息を吹き返した。医者は驚き、家族は腰を抜かした。一体なにが起きているのか、状況をすぐには把握できなかった。しかし、やがては歓喜が訪れた。良かった良かった。家族は本当に嬉しそうにその顔を見た。ボブの顔にも、自然と笑みがこぼれた。 そこから一年の間、ボブは生きていた。家族とも楽しい時間を過ごし、まさしく充実していたと言えるだろう。しかしそれも終わりを告げる時が来る。まただんだんと体は弱り、再び布団に伏せって最後を待つことになった。今度こそ最後か。皆悲しんだが、この一年長生きできたのだからそれだけで十分なのだと己を納得させた。そして医者を呼び、最後の確認をしてもらおうとした時、ボブはまた息を吹き返した。 一体どうなっているんだろう。医者はからかわれているのかと思ったが、家族の顔を見るにそうではないようだ。まったく不思議なこともあるものだ。そうぼやきながら帰っていった。 家につくと、ポストに新聞が入っていた。服を着替えてからそれを読む。そして、なんということはなくつぶやく。 「まったく、医学の進歩というのはめざましいものだな。また平均寿命が伸びているよ。」
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