刑罰

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刑罰

そりゃ、こっちだって最初はいいと思ったさ。私みたいな犯罪者が、これまで通り生活できるんだからな。あれだけのことをしたことからしたら、ほとんどお咎めなしみたいなもんだろう。両手をあげて賛成てなもんさ。確かにちょっとした不自由はあるかもしれない。でも、それがなんだっていうんだ。刑務所の中にぶち込まれた日にはそれどころじゃない。だから、すぐさま首を縦に振ったんだ。 人道的、人道的か。なるほど暴力もなければ理不尽もない。他の囚人にいじめられることもないし、看守に金を渡す必要もない。今までのように家にいることができる。素晴らしいじゃないか。この法律が決まった時、私の仲間も喜んでいたよ。もっとも、善良な市民の方々は怯えただろうし、反対運動があったのも納得できる。真面目であればあるほど損を受けるかもしれないからな。 それにしても、文明の進歩というのは恐ろしいものだ。この足首につける輪っか一つでこれだけの効果をあげるとは。苛立ちを通り越して感心するよ。大掛かりな機械も人員もいらない。言葉を聞き取れるこの輪っかさえあれば全て事足りる。作る費用はかかるんだろうが、新たに刑務所を建てることを考えたらたかが知れてるんだろうな。 一体こんなことを誰が考えたんだろう。きっと私なんかと違って頭の良い人に決まっているが。一見人道的だが、こんな残酷な刑罰が浮かぶなんて、そいつこそある意味危険なんではなかろうか。そんなこと口が裂けても言えないが。 ああ、気が重い。言葉を発することがこんなに辛くなる日が来るとは思ってもみなかった。それでも喋らなくちゃいけないのが辛いところだ。皆もよく覚えておくといい。この輪っか、こいつは五分ごとに喋らないと電気が流れるようになっているんだ。無理にでも黙っているとどんどん強くなってくる。だから喋るしかないんだ。 話すだけじゃないか、何が辛いのかって。そりゃ普通に喋るだけならなんともないさ。ただ、私たち犯罪者は決まった語尾やら何やらをつけて喋らなきゃならないんだ。これは、ことだぜ。毎日生き恥をさらしてるようなもんだ。こんなことなら悪いことをするんじゃなかった。今になって心から思うよ。 さて、もうすぐ時間だな。口を開きたくもないが、仕方ない。私に出された刑罰、それは語中に「はわわ」、語尾に「だにゃん」をつけて話すこと。 犯罪が激減したのも分かるだろう。毎日毎日人前でこうやって話すのに比べたら、はわわ、刑務所にでもぶち込まれた方がいくらかまし、だにゃん。こうなれば家に引きこもるしか、はわわ、ないじゃないか。だにゃん。
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