贄の少女

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その日は雨だった……いつもの様に黒い雨だった……。 時々地面に落ちる雨音に、何かを溶かすような焼ける音が混じった。 少女の前には、男女が座っていた……。 男女も少女もうつむいたまま何も言わずに向かい合っていた。 やがて、男が淡々と言った。 「許してください……私には何もできませんた。」 女も淡々と言った。 「私も何も出来ませんた。」 二人の機械的な淡々とした言葉に、少女は達観したような笑みを浮かべて答えた。 「誰かが、そうならねばならなかったのです……この村では該当するのは私だけ……でしたら、仕方のない事です。 あなた達にはここまで大切に育てて頂きました……改めて感謝いたします。」 少女は半分声を詰まらせながらそう言った。 「ああ、なぜ貴女なのでしょうか……仮に、人間が信じるという神様という存在が実在するのでしたら、神様はなぜこのような仕打ちをするのでしょう……。」 女はそう機械的に言って少女の顔を、人間味の無い無機質な瞳で見詰めていた。 この村に、神から生贄を差し出せという触れが出たのは3日前だった。 生贄は15歳から30歳までの女……条件はそれだけだった。 ただし、生贄を出さねば村は地獄の業火に焼かれると但し書きで書かれてあった。 実際、近くの村ではそれに従わなかったせいで村は火に包まれ、村中の財産やそして女・子供が連れ去られそれ以外は誰も生きてはいなかったという……。 ある村では武器を持って抵抗したが結果は同じだったという……。 この村では、条件に該当する女性は少女だけだった。 男女と少女はまたしても言葉を失い……ただ俯いていた。
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