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ドリッパーにフィルターをセットして、一度お湯を通し器具を温めた後、店長が丁寧に挽いた中細挽きのコーヒー豆をスプーンで二杯入れる。
ちなみにお客さんは"莉子" ブレンドと言ったけれど、実際にはそんなメニューはなく、この店のスタンダードなブレンドだ。キリマンジャロがメインで、酸味と苦味のバランスが良く、香りが深い。
まずはお湯を数滴垂らし、ドリッパーを優しく一回し。豆と少量のお湯を混ぜて、まんべんなく蒸らす為だ。
香りを確かめるように深く息を吸い込むと、細い線を描きながらゆっくり、ゆっくりお湯を注ぐ。
やがてほんわりと膨らんだコーヒーが、細かな泡と共に、時間をかけて小さくなっていくのをうっとりと眺めた。
全てがガラスポットに落ちきると、静かにカップへ注いだ。
「三澤さんの淹れるブレンド、一番人気だからね」と店長が頬笑む。
私は会釈をすると、出来立てのコーヒーをトレンチにのせた。
「また店長のひいき始まった」
「あんなもん誰が淹れても一緒っしょ」
背後から聞こえた声の主は、さっき休憩室で会ったメイちゃんと、彼女と同じ時期に入ったアルバイトの桜ちゃん。
メイちゃんが可憐でフェミニンなタイプだとすれば、桜ちゃんは溌剌としてエネルギッシュな美人。
大学でスポーツをやっているらしく、ショートヘアが良く似合っていた。
二人に共通するのは、ギャルソンエプロンがきまっている綺麗な女子大生ということ。
彼女達に疎ましく思われていることは雰囲気だけで感じ取れていた。
それはきっと、私が長い間このカフェに勤めている割に、きびきびとリーダーシップがとれない不器用者だからだと思う。
そして、出勤日数が多い為に店長とよく話すから。
バツイチ独身、イケメンの若い店長は、ホールの女の子から人気なのだ。
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