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____「三澤さん、すみません。私ちょっと体調が悪いので、先に上がらせてもらえますか?」
閉店後の清掃中に、メイちゃんが青ざめた顔で言った。
「大丈夫?こっちのことは気にしないでいいから、早く帰ってゆっくり休んでね」
「はい、ありがとうございます」
メイちゃんは、ペコリと頭を下げるとお店を出ていった。
店長は小学生のお子さんがいる為、いつも早めに上がるので、クローズ作業は私が任されている。
一人になった店内は、しんと静まり返った。
キッチンを片付けた後、ホールのモップがけをして、その後はレジ締めもしないと。明日足りない仕込みはなかったっけ?
これは今日、定時には上がれなさそうだ。次のバイトに遅れなければいいけど。
「……こういう時は」
ロッカーからスマートフォンを取り出し、音量を最大ボリュームに上げて音楽を流した。もちろん、さっき途中になってしまった『リコリス』という歌。
メイちゃんが言っていたように、今流行っているバンド『sweet silence』の人気曲だ。
特別、彼らの大ファンとか、そういうわけではないけれど。
『リコリス』だけはずっと聴き続けている。
それは、私にとって宝物のような歌だった。キラキラ輝いて、ときめいていた学生時代を思い出させる。
どう足掻いたって、もう二度と戻らない日々を。
『リコリスの花言葉知ってる?
僕にとってそれは、かけがえないもの
君のことを今でもずっと想っているよ』
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