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その日を境に、夕御飯をコンビニで済ますことが多くなった。
駅前の広場で一曲だけ彼のリコリスを聴いた後、電車に乗って次の職場に向かう。いつしかそんなルーティンが出来上がってしまった。
あの日以来、彼の涙を見ることはなかった。だけど、心のどこかにその泣き顔はインプットされてしまったようで、ふとした時に思い出してしまう。
まるで、昏い空にそっと流れる星のように、私の心の中で彼の涙は光った。
「三澤さん、明日の夜空いてますか?」
またもや休憩室にて、メイちゃんが意気揚々として言った。私は一瞬で落ち着きを失う。
「この間、先に上がらせてくれたじゃないですか。そのお礼がしたいんです。桜と三人で、ご飯どうですか?」
「あ、明日は……」
何もない。何もないけど、気が進まない。でも、こんな若い子がせっかく誘ってくれたんだし、これを機に打ち解けられるかもしれない。でも……
「……うん。ありがとう」
やっぱり断れなかった。断ることが、人生で一番の苦行だ。
「やった!じゃあ、明日19時に駅前広場で!」
明日は久しぶりにカフェでの仕事はお休みで、深夜の清掃バイトだけだったから、ゆっくり休もうと思ってたのになぁ。
「ふぅ」と一つため息をつくと、サロンを手にとった。
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