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この後も仕事だからとオレンジジュースを注文すると、早くも白けた雰囲気を感じた。何度も今日は飲めないと念を押していたはずなのに。
正解がわからないまま、ひたすらオレンジジュースを飲んで、目の前にあるお通しを口に運んだ。
向かい側に座っている青年は、まだニヤニヤとしながら私を見ている。……品定めしている、と言った方が的確かもしれない。居心地が悪くてたまらなかった。
「三澤さん、下の名前なに?」
「あ、莉子です」
私の名前を聞いて、メイちゃん達が驚く。私の名前を今まで知らなかったことに、私も驚く。
「可愛い名前だね」
ニヤリとしながら言う青年。
「なんか三澤さんっぽくない」と言うメイちゃん。
本当にもう、帰りたくなってきた。
「年いくつ?俺は24」
「……29です」
盛大に笑いが起こった。
「見えないね。なんか幼いっていうか」
「あー、実家暮らしだからじゃないですかね?」
「いい歳こいて親と住んで、カフェでバイトして」
「稼いだお金は、オタ活に使ってるんじゃないですか?ほら、スイサイファンって言ってたじゃないですかぁ」
皆楽しそうにケラケラと笑っているけど、私は流石に愛想笑いさえできなくなっていた。
スカートのポケットに手をいれて、家の鍵についているキーホルダーを握りしめる。嫌なことがあったり、緊張する時にそうする癖がついてしまった。
「なんか甘えてんね」
目の前の青年が、今度は真面目な顔をして言った。
「いい大人がさ、定職にも就かずに趣味にお金使って。なんか、嫌なことから逃げてるみたいだな」
彼の一言に、ぷつりと何かが切れてしまった。それは怒りとも、悲しみとも違う。
しいて言うなら、諦めだった。
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