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それぞれに挨拶をしたり、業務準備をする、互いに少しだけプライベートな表情を見せあう朝の始業前の一時。
角宇野商事、海外営業部の電話が鳴り響いた。
「はい、海外営業部石田です。え?
おー。ハロー!ディスイズ石田。
いぇす!ジャスたミニっ、プリーズ。
天~、シアトルのクリスなんちゃら、2番。」
「クリス?クリスティン?」
「あ、クリスティン!」
「有難うございます。」
今年出産して、復帰したばかりのアメリカのクリスティンからだろう。始業時間ジャストでかかってきた国際電話に石田先輩がテンパっていた。それでも、スラスラと淀みなく応対できる石田先輩は流石だ。発音はともかく。
天は石田先輩はから繋がれた電話に出た。
"Hello? Hi, Christin. It's been a while. How about your baby? Great. Sure. Let me check the file. Wait a sec..."
「てんてん、ヤバ〜い。朝からカッコいい〜。」
「木下〜。ヤバいのはお前だろ?丸々商事とスクエアストア、トライA社さんとこの見積もり書、前に渡した数字で今週中に発送だぞ。」
「今週中なら大丈夫です!」
「今日が金曜日でもか?来月上旬には受注できるようにするんだぞ?今四半期の売上に入れるんだからな?」
「任せて下さい、石田さん!今日はそれ最優先なのでバッチリです。」
「…おう。お前を信じてるぞ、木下。」
明らかに天の電話の声に耳を傾けながら、木下亜子はいそいそと自分の席に戻った。
「てんてんはダメだよ。亜子ちゃん。あぁ見えて、彼女、とっかえひっかえなんだから。」
「ん~。その噂、ホントなんですかねぇ。てんてんって、そんな悪い人には見えないんですよね。」
「悪い人は悪い人って表には見せないから、悪い人なのよ。」
石田の脅しで、ようやく仕事モードに切り替わった木下亜子に、先輩の山下真子が隣の席から声を抑えて忠告した。
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