落とし物

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気付いたら、腕からスルリと時計がなくなっていた。 細身のゴールドチェーンのバンドの腕時計。 ソーラー電池で動くそれは、太陽の日差しなしでは動けなくなる。 気に入っていたのに。 もしかしたら、カバンの中に落ちてしまったかもしれないと、カバンの中身をすべて出したり、ひっくり返してみたけれど姿は見えず。 時計。 時計はなくてはならないもので、掛時計やスマホの時計なくして、生活出来ない現代。 腕時計は、今はスマホに取って代えている人も多そうだけれど、つけている方がわたしは安心する。 フッとした時に時間を確認するには、その方が手早い。それに、腕時計で時間を確認する姿にカッコよさを感じたりもするから、逆に言えば、その仕草で誰かがわたしに恋に落ちてくれるかもしれない。もちろん、わたしからも。時間を確認するその視線に、トクンと胸打つ。そんな風にして、恋が芽生えるかもしれない。なんて、淡い期待をほんの僅かだけれど隠し持っていたりもして。 恋に落ちるきっかけなんて、どこに転がっているかわからないから。 そんな淡い期待を忍ばせておいた腕時計を、どうやら落としてしまったようだ。 恋に落ちる前に、腕時計が落ちた。 軽くショックを受けている頭で考えることなんて、こんなもんだ。 どうしよう。お気に入りなのに。 時間を確認する術は、当分スマホがあるから大丈夫として、もう一度同じものを買うか、新たに選び直すか。ショックを受けながらも、次の一手を考える。 もしかして、誰かが拾ってくれて、届けてくれた彼と恋するかもしれない。 新しく買いに行くお店の店員さんに、恋するかもしれない。 トク、トク...と、時計の秒針が時の音を叩くように、胸の音もボリュームを上げる。
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