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「今日はちょっと疲れちゃったから、ひとりがいい」 「……んー……うん、はい」  どんなに好きでも、塩見にはひとりの時間が必要で、それを受け入れてもらえなければ長く付き合い続けることは出来ない。以前の塩見なら流されてしまう場面だったが、今は戸川のことが好きだからこそ、自分の時間も大切だと主張することが出来る。 「さみしい?」 「ん? いや、別に」  一緒にいたい思いはあるけれど、さみしいかと聞かれるとそれは少し違うなと戸川は思う。互いを尊重し、時に譲り合い、感情のささくれのない関係を作ること。それは人間関係においては割と普通の当たり前のことで、恋人だからといって四六時中べたべたくっついていなければならないということはない。愛とは一緒にいたいと思うこと自体が愛であり、一緒にいられないからといって愛が不足するわけでも、欠けているわけでもないのだ。 「シオちゃんといると、俺、詩人になれそう」 「なにそれ」 「内緒。じゃあ、今日はゆっくり休んで?」  ちゅっと塩見の額にキスをして戸川が立ち上がる。その背中を追いかけ、玄関でもう一度おやすみのキスをして、目の前で閉まる扉に塩見はほうと安堵の吐息をもらした。  
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