10

10/12
194人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
「あっ、シオちゃん見て。ほら」  煙草を灰皿に置いた戸川が、目を見開いて水槽に顔を近付ける。 「なに?」 「ほら、見て。あそこ」  嬉しそうに戸川が指さす先、水草に隠れるようにして二匹のグッピーが戯れている。それは……いつか戸川が塩見に似ていると言ったブルーグラスと、塩見が戸川に似ていると言ったアイボリーモザイクだった。  二匹は水草の間をゆったりと優雅に泳ぎ、追いかけっこをするように付かず離れずの距離を保っている。一定の距離を保ち、時おり相手を窺うように振り返り、どちらも美しい尾びれをひらひらと誘うように揺らす。 「誘ってんの?」 「はい? どっちも雄だよ」 「ふーん。でも、そんなの関係ないじゃんね」  まるで自身の化身を応援するかのように、戸川は二匹の競演を見つめている。塩見はそんな戸川の横顔を見つめ、そっと頬にくちびるを寄せた。塩見のくちびるが頬に触れる直前で戸川が振り向き、ふたりのくちびるが重なり合う。 「……今日、こっちに泊まってもいい?」  塩見のくちびるを食み吐息混じりに聞いてくる戸川に、塩見はキスを返しながら小さく「だめ」と呟く。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!