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 車に乗り込むと塩見はシートベルトを締めながら、ホッと息をついた。 「疲れた? 大丈夫?」  運転席で「1本だけ」と言って煙草に火をつけた戸川が、そう塩見に声をかける。 「いえ、割と早く決まったし」 「スーツは俺が前日に取りに行くからね。あとさ……ちょっとだけ新宿に付き合ってくんない?」 「新宿ですか? いいですよ」  車内は煙草の匂いの他に、戸川の香水がやわらかく香っている。すっきりとしたウッディに甘くたちのぼるムスク。ふたりきりの密室空間は塩見にとってドキドキするものだったが、パニック発作のような不快感は感じない。久しぶりの外出で気を張っていたが、出掛ける前に服用した安定剤が心地よく効いているようだった。  
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