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 戸川が向かった先は新宿にある映画館だった。一見すると映画館とは思えないような大きなガラス張りの建物を前に、塩見はぽかんとする。てっきりなにか買い物でもするのかと思っていたのに、映画館とは――と戸川を振り返る。 「騙されたって顔してる」 「あ、いえ……買い物でもするのかなと思ってたんで。観たい映画があるんですか?」 「映画がどうこうよりシオちゃんと来たかったから」  エントランスを抜けると戸川は迷うことなくエスカレーターのほうへと進んでいく。 「え? 戸川さん、そっちって……」 「いいから」  驚く塩見に戸川はやわらかくほほえみ、塩見の腕を取りエスカレーターに足を乗せる。すいすいとあがっていくエスカレーターは2階も3階も通りすぎ、ふたりが床に足をつけたのは5階だった。  プレミアシート。そんな文字が塩見の目に飛び込んでくる。 「一回プレミアシートで観てみたかったんだよね」  呆然としている塩見に戸川がいたずらっぽく言う。サプライズが成功して喜んでいる戸川に、塩見は言葉もない。 「シオちゃん、こっち」  専用の通路を抜け館内へ入ると、座り心地の良さそうな二人掛けのソファが、ふたりをでんと待ち構えていた。両サイドには仕切りが設けられ、テーブル、ドリンクホルダー、それから足を乗せる台まで設置されている。
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