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「ここならシオちゃんもリラックス出来るでしょ。座ってて。俺、飲み物買ってくるから」  プレミアシートという名前ではあるが、要するにカップルシートである。塩見は恐る恐るソファに座ると、覗き見るように上体を倒した。階下には通常の座席が広がり見張らしがいい。ソファはふかふかで、ベルベットのようなまったりとした手触りがなんとも気持ちが良かった。塩見の頭の中、不意に『デート』というカタカナ3文字が躍りだし、落ち着いていたはずの心臓がとくんとくんとピッチをあげていく。 「お待たせ。ほい、コーヒー」 「ありがとうございます」 「あと、チキンサンド」 「……戸川さんて、ほんと鶏肉が好きですよねぇ。でもって、なに飲むかとか、なに食べたいかとか聞かないですよね」  嫌みではなく塩見の正直な感想だ。 「え? コーヒー嫌だった? チキンサンド嫌い?」 「嫌じゃないし嫌いじゃないです……僕はいいですけど、女性はそういうの嫌がりますよ」 「なにそれ。シオちゃんがいいならいいじゃん」  戸川はさして気に留めるふうもなく、大口を開けてチキンサンドにかぶりついている。戸川と居て楽だと塩見が感じるのは、こういう時だ。細かいことを気にしないし、意見を曲げることもない。人の感情を敏感に察知してしまう塩見は、相手の迷いが伝わるとそこに対して気を遣ってしまう。だから、迷いのないさっぱりとした戸川といると楽なのだ。
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