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 ふたりがアパートに戻ったのは、夕方の4時すぎだった。お別れをするには早い時間だったが、戸川は塩見のことを思い戸口に立ったまま、部屋に足を踏み入れようとはしなかった。 「疲れた?」 「いえ、あの……楽しかったです。でも……なんていうか、ひとりになるとドッと疲れが押し寄せるというか、その……」  それもまたHSPの特徴だ。人といる時は気がつかない。だけど、ひとりになった途端に気がゆるみ、疲れていることに気がつくのだ。塩見はそれをうまく説明出来ないことがもどかしく、なんとか理解を得ようと言葉を探す。 「いいよ、わかってる。あれだろ、知らない間に充電が減ってるみたいな感じ?」 「そう! そうです。人より減りが早いんです」  思いがけず的確な言葉を返してくる戸川に、塩見は嬉しくて大きく頷く。 「誤解されがちなんですけど、一緒にいる時は楽しいんですよ。ずっと疲れたとか、ひとりになりたいとか思ってるわけじゃなくて」 「楽しかったんならいいよ。じゃあ、ゆっくり休んで?」  名残惜しそうに戸川の手が塩見の頬に触れてくる。映画館で交わしたキスを思いだし、塩見はカッと耳が熱くなる。
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