5

2/15
前へ
/104ページ
次へ
「じゃあ、明日5時すぎに迎えに来るから」  出版記念パーティの前日、約束通り戸川は塩見にスーツを届けに来た。 「わかりました。あの……コーヒーでも飲んでいきますか?」 「いいの?」 「逆にどうしたんですか。いつも勝手にあがりこむくせに」  いつもなら、塩見が出てきた途端に勝手にあがりこむ戸川が、今日はまだ玄関口に立ったままでいる。 「いや、だって昨日もお邪魔したし。シオちゃん、嫌かなーって」 「もう慣れました。でも、コーヒーしか出てきませんよ?」  軽口を叩いて塩見がキッチンへと向かう。戸川は部屋にあがりこみ、いつものように水槽の前に座ると、テーブルの上に灰皿が置いてあるのを見て勢いよく塩見を振り返った。 「シオちゃん!」 「なんですか、大きな声をだして」 「これ! 灰皿、用意してくれたの?」 「あぁ……ネットでたまたまかわいいのがあったから」  塩見は『たまたま』と言うが、検索しなければ灰皿なんて偶然目に入るものではない。ガラス製の星型の灰皿。これを塩見が『わざわざ』購入してくれたことが、戸川は嬉しくて堪らなかった。  
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

200人が本棚に入れています
本棚に追加