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 煙草を吸わない塩見に、灰皿は必要のないものだ。そして、この灰皿を使うのは自分だけなのだと思うと、戸川は柄にもなく照れくさい気分になる。 「あれ? 吸わないんですか?」 「感動を噛み締めてるんだよ」 「なんですか、それ。コーヒー置きますよ」  戸川は3日と空けず塩見の部屋へとやってきては、一緒に食事をし煙草を何本か吸って帰っていく。だから塩見は、そろそろ空気清浄器でも買おうかなと思っている。それくらいに、この部屋に戸川がいるのが当たり前になってしまっていた。 「シオちゃんはさぁ、そろそろ認めたほうがいいよ」  ようやく煙草に火をつけて戸川が言う。 「なにをです?」 「俺のことが好きだって」 「それは……認めてますよ」 「じゃあ、きちんと付き合おうよ」  戸川が塩見の隣に引っ越してきて、そろそろ一ヶ月が過ぎようとしている。その間にデートも何回かしたし、キスだってした。それでも尚、付き合っているとは言えない現状が戸川にはもどかしかった。 「付き合うってなんですか? そういうの、わざわざ互いに承諾しなきゃならないもんですかね」 「そりゃあ、だって……ひとつの契約みたいなもんだから」
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