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「契約……セックスするための契約ですか?」
「それもあるけど、それだけじゃないでしょ」
今の現状は付き合うという口約束をしていないだけで、付き合っているも同然である。だが戸川は、塩見から好きだと言われていない。気持ちを確認すれば認めはするものの、自分の意志で気持ちを伝えてはこない。戸川が今ひとつ先へと進めないのは、それが原因だった。
「じゃあさ、今のこの現状はなんなの? 付き合ってるっていうんじゃないの?」
「それは……戸川さんがそう思いたいなら、そう思ってくれててもいいですけど……僕は別に付き合うっていう契約をしなくても、戸川さんがしたいならセックスしてもいいですよ?」
「だから……なんで俺主体なんだよ」
ぼやくように呟いて、戸川は煙草の煙と共にため息を吐き出した。
「多くを望むと、失った時にしんどいじゃないですか」
困ったように塩見が眉をさげる。
「まぁ、わかるけど……」
だとしたら塩見はなにを望んでいるのだろうと戸川は思う。なにを望み、失望が恐ろしくて、なにを望むまいとしているのか。誰と付き合ったとしても明日のことすらわからない。それなのに、塩見は一体なにを恐れているのか、戸川には検討もつかなかった。
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