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「わかった?」  塩見が現状を理解する頃にはもう、戸川は元の位置に戻っていて、かすかに残る煙草の匂いと戸川のくちびるの感触だけがキスの事実を物語っている。 「……わ、わか、りたくないです。はい」  好きな人に好きだと言われキスをされた。それは喜ばしいものである。しかし塩見は、素直にそれを受け取れない。 「俺のことが好きじゃないってこと?」 「あ……いえ、そういうわけじゃないですけど……」 「だよね? シオちゃん、俺のこと好きだよね?」  自意識過剰とも取れる物言いだったが、不思議と戸川が言うと嫌味がない。 「その……たぶんていうか絶対、長続きしないと思うんで」 「だから? 最初から別れること想定して付き合うやつなんていないと思うけど」 「そうですけど……僕がしんどいです。気疲れしちゃうし、あと……ほら、パニック障害だから一緒に出掛けたりも出来ないし」  戸川の視線を避けるようにしながら、付き合えない理由を述べる塩見を、戸川がじっと見る。
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